SRS速読の本質と12の特徴を知ろう
・・・他速読との違いも分かる
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 メールなどで、SRS速読にはどういう特徴があるかをよく質問される。それに対して一々解説する代わりに、以下の論文を読んで察していただきたい。
 この中には、SRS速読の事実もまとめてあり、それを知ることは同時に、他速読との違いを明確に知ることにもなるであろう。
 他速読に以下のような特徴があるのかどうかを比べつつ、よく読んで、よく理解して、違いを知る目を持ってほしい。
 特によく知ってほしいことは、SRSは「小手先の速読」を教える体系ではなく、過去には存在しなかった全く新しい能力開発の体系だということだ。
 10倍(もしくは1万字/分以上)の速読力はその副産物の一つとして、自然に、確実に、かつ速やかに、かつ自然に得られるものなのだ。
 そして、「小手先だけの速読力」「目先だけの速読力」を求めることが実は氷山の一角だけを変えるような作業であり、それはほとんど失敗かつ失望に終わるはずだということも察してほしい(例: 4000字程度の速読は目先だけの速読力だ)。なぜなら、そもそも氷山の一角だけを動かすことはできない相談であり、しかもそこには「人間の本質を変える」という作業がなされていないからだ。
 氷山を動かすには、氷山全体に働きかける必要がある。それは能力の根底をなすハードウエアも変えるような能力開発法の体系でないと所詮無理なことなのだ。
 SRSの最大の特徴はそのような変革を驚くべき短時間で驚くべき確実さで成し遂げることにある。過去390クラスの1万人を超える教室受講者たちが生み出して来た膨大な科学的データはその事実を明確に示している。
   [以下の文章は2001年の1月に書かれたものである]
(右の写真は、ツクバネの実である。
 自然の知識も広げよう)






SRSは21世紀における心身の潜在能力開発法

 世紀の冒頭にあたって、21世紀の心身の潜在能力開発法がどのような一般的条件を満たすべきかについて、SRSの見解を述べることとした。
 まず、最初に要旨を示し、次に本文を示す。この内容は、2001年2月17〜19日に予定されている科学技術振興事業団主催の「−新パラダイム創成に向けて−心と精神の関与する科学技術」(平成12年度 異分野研究者交流フォーラム)にて報告される。
    [実際に、報告され、後に、論文として収録された]

 【要旨】21世紀に発展すべき心身の潜在能力開発法が満たすべき諸特性を提案し、考察した。
 それは、@系統性、A向上性、B定量性、C普遍性、D合理性、E潜在性、F新規性、G総合性、H簡易性、I速効性、J集合性、K制御性、という12の特性に集約された。
 以上の特性を備えた上で、@「目標システムの初期状態を自覚する段階」、A「システムの制御力を得る段階」B「システムを発展・強化する段階」、C「制御の度合いを洗練し範囲を広げる段階」、という四段階(簡略には「自覚・制御・強化・洗練」と呼ぶ)を辿りながら、人間の生命システムの全般的改善を目指して、最終的には過去の方法論ではカバーされなかった新規領域をも自然に包摂できることが望ましいと考えられた。
 また、心身の諸現象をとらえる概念モデルを検討し、用語辞書を整備することが、新パラダイムを確立し共有する上で必須であると考えられた。
 その際には価値観の体系も検討し始めることが重要と考えられた。
 以上を理解するヒントとして、筆者が提唱するSRS能力開発法の内容と成果を例示した。SRSは12の特性を満たした技術体系を整備して、4万人以上の指導をしてきた[この中には通信教育も含まれる]。
 その過程で、「心身システムの@加速とA共鳴」という二大コンセプトに基いて、知的情報処理のパラダイムシフトを短期間で実現するように訓練を進めることが、心身の総合的な潜在能力開発の最も効率的な道筋であると認識するに至った。
       
0.序論
 本報告では、「心身の潜在能力の開発法」に関して、21世紀に開拓され整備されるべき新分野に、どのような特性が備わっていることが望ましいかを検討した。
 それぞれの特性が具体的に理解されることを目指して、1987年に筆者が提唱した能力開発法(Super-Reading System、以下、略してSRSと呼ぶ)から具体例を引いて論じた。
 SRSは人間の知的情報処理のパラダイムを変革し、知的効率を高めるための訓練体系である。そこでは速読力の獲得を目指して心身の総合的な訓練を行う。2000年までに360クラスの指導がなされ、計3万5千人(1万人は直接指導。残りは通信指導)が訓練に参加し、精神面、身体面、心身相関面、生活面で膨大な定量的データが蓄積されて来た。
 以下、本報告では、「心身」を「心+体」ととらえる(図1)。

 「心」とは、「人間存在の主観的な側面」のことであり、それは「自覚できる意識活動」と「自覚困難な意識活動」とに分解できる。前者を本報告では「顕在意識」、後者を「潜在意識」と呼ぶこととする。  「体」とは、「人間存在の客観的な側面」のことであり、そのうち顕在意識で操作できる領域を「随意領域」、顕在意識で操作困難な領域を「不随意領域」と呼ぶこととする(定義)。 「心身の潜在能力の開発法」を以下、簡略のため「心身開発法」と呼ぶこととする。また、そこで実践される営みを総称して「訓練」と呼ぶ。
 以下の本論では21世紀の「心身開発法」にふさわしいと考えられる12特性を論ずる。

1.系統性
 ●「心身開発法」が備えるべき望ましい特性の第1番目は「系統性」である。
 系統性とは、人間の心と体をシステムとみなし、そのシステムのあり方、およびサブシステム間の関係を具体的に検討して、それを改善する実践を行う姿勢を言う。
 これは同時に対象に対する概念モデルが構築され、それに関する用語辞書が整備されることでもある。
 概念モデルは、実際の訓練では作業をそれに従って遂行する「作業モデル」になり得る。
 人間のシステムには「上部構造」と「下部構造」を想定することができる。
 冒頭の定義にあてはめると、上部構造は、心では顕在意識で、体では随意領域である。下部構造は、心では潜在意識で、体では不随意領域である。
 過去の能力開発法には、下部構造として、潜在意識(または「無意識」)と不随意領域(または「不随意的反射」)を漠然と想定して訓練をするものが多かった。21世紀の能力開発法では、上部構造と下部構造を共に確実に活性化し、しかもその相互作用を新たに把握し、その知見を明確に活用したものであるべきである。
                                 
 ■SRSの場合には、知的情報処理システムの機能を改善することを目標とする。
特に速読法の分野では、知的機能の加速を目標とする1)。その際に、人間の心身を、@運動系、A自律系、B感情系、C感覚・心象系(略して心象系)、D言語系、E代謝・潜在系(略して潜在系)の六つのサブシステムに分解して訓練を行う2)。これは概念モデルであるると同時に「作業モデル」でもある。
 具体的には、「運動系」は関節や筋肉運動の働きを示し、「自律系」は内臓とそれを動かす自律神経系の働きを示し、「感情系」は感情や情緒の働きを示し、「心象系」は感覚とイメージ能力の働きを示し、「言語系」は言語機能を含む知的機能や高次の認知機能を示し、「潜在系」は以上五つでは分類し切れない働きを総称し、そこには潜在意識の働きや代謝の働きも含むものとする。

 最初の五つのシステムにはいずれにも「上部構造」と「下部構造」との二相がある(図2)。下部構造の訓練と潜在系の訓練が潜在能力開発に直結する。

2.向上性 
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第2番目は「向上性」である。
 これは、@進歩の階梯(段階)が具体的に設定され、Aそれぞれの段階の到達目標が明確にされ、B各段階にちなんだ訓練内容が体系的にかつ多様に用意されていることである。すなわち、向上性とは向上するための周到な仕組みが用意されていることである。用意された訓練体系を「プログラム」と呼ぶ。
 向上性があることの意義は、@最初に具体的な動機を設定することが容易になること、A各段階で先々の進歩のビジョンを形成することを助けること、B向上心を維持することに寄与することである。
 ■SRSの場合、向上性に関しては、180ステップの内容があり、3つの大きなレベルに別れ、次第に難度の高い段階に進むようにプログラムされており、一段一段着実にレベルアップしていく仕組みになっている3ー5)。
 その過程で速読法、記憶法、心象法、瞑想法、心身法、健康法、速書法の主要八分野と百以上の小分野からなる階梯を順次修得していく。メニューはステップ毎に異なり、常に新鮮な気持ちで訓練に接することを保証する。
 具体的な訓練内容は文献3)に示され、メニューの一部は文献4)に紹介されている。
 特に速読法に関しては、10級から1級までの段階が設定され、生涯学習開発財団の後援を得て定期的に検定試験が施行される(2002年4月現在、第32回まで施行済み)4)。

3.定量性
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第3番目は「定量性」である。
 定量性とは、個々の訓練の成果を数量的な指標で表現する仕組みがあることを言う。
 定量的な指標は訓練の効果を評価するために必要である。主観的な項目に関しても定量的な指標の設定は可能である。たとえば、痛みに関して、10段階の視覚的なスケールを用いて評価することの意義はよく認識されている。客観的な尺度と主観的な尺度とにはそれぞれの解析に際して妥当とされる統計的な手法が存在する。
 20世紀までの心身開発法では、主観の世界を扱う訓練が少なくなかったためもあって定量性に関して不十分なものが多かった。そのような場合、特定の段階に対する到達度を自分でも明確に判断することが難しく、客観的に評価することも難しかった。
 適切な数量尺度を設定し、それをフィードバックしながら、訓練を進めることの意義は大きい。
 特定の能力に関して定量的な指標が与えられると四重の意義が生ずる。
 第一は、本人が進歩を自覚しやすいこと、第二は、指導者も参加者の進歩を評価し易くなること、第三は、集団で訓練を行う場合、集団全体としての進行度や訓練の妥当性を評価できること、第四は、集団内における個人の位置付けを知ることに役立ち、個人差を自覚・評価し、それを克服する上で役立つことである。
 定量的な指標は単独でなく、複数のものを併用して用いることが望ましい。心身の諸システムの変動や、生活面での変化も知るために、網羅的に設定できるのが理想である。
 定量的な指標によるデータの蓄積は心身開発法自体を進化させる上でも重要である。それは心身開発法相互の成果を定量的に比較することで可能になる。
 ■SRSの場合には、すべての訓練が数量的に評価できる仕組みになっており、データをそのつどパソコンに入力し、統計的な解析を行い、平均値と標準偏差を示し、その結果を次回の講習の際に全員にフィードバックする。毎回のデータを記入するシートには150以上の項目が想定されている。このデータ項目は、図2の六つのシステムのすべての側面をモニターするようにデザインされており、個人および集団のデータを毎ステップ、有機的に読み解くことを通じて、進歩の時間的側面、個人特性、集団特性を明確に把握する




 上には、知的能力の定量的な尺度の例として、第352クラス(30名)での迷路抜け速度、計算速度、読書速度(速度【字/分】)のデータと、第279(72名)での速読(読書速度【字/分】と訓練前速度に対する倍率)のデータとを示した。いずれも10週間のコースである。ここで、迷路抜け速度は認知機能の指標、計算速度は作業効率・集中力の指標、読書速度は言語の情報処理効率を示す。訓練前、訓練後のそれぞれの平均値と標準偏差、および進歩の倍率の平均と標準偏差が示してある。迷路3倍、計算1.5倍、速読約30倍になっている。過去360クラスのすべてで読書速度は平均10倍を超えた[2002年4月には390クラスになっている]。


4.普遍性 
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第4番目は「普遍性」である。
 普遍性とは、目標とする能力に関して、参加者のうち一定レベルまで到達できる人の割合が多いことを意味する。ごく一部だけの人しか目標に到達できない体系は、社会的な意義が少ない。医療で言えば、普遍性とは、疾患に対する治療法としての有効率がある程度以上高いことに対応する。従来の民間医療では、有効性の検討が不十分であった。
■SRSの場合には、特殊な人だけができる訓練は除外し、一定期間練習すれば95%以上の人が目標を達成できる訓練だけを組み合わせて進むという方針を採用している。
 95%以上の人ができる個々の能力のことを「常能力」と呼ぶ。SRSは「常能力開発」の体系である(すなわち、SRSは「超能力開発」の体系ではない)。常能力を組み合わせて進んでいくので、その成果はほとんどの人が享受できる。
 普遍性を示唆する例として、図4には、10回で学ぶ初級速読講習を全回出席した362名が、最終回でどのような読書速度の倍率(=訓練前の読書速度に対する倍率)を達成したかの分布図を示す。94%が10倍突破をしていることが分かる4)。
 すなわち、10倍突破速読は常能力であることが示唆されている。


5.合理性 
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第5番目は「合理性」である。
 すなわち、その訓練体系および、その土台となる心身の理解が、従来の科学的な成果を最大限に取り入れており(これを「先進性」と呼ぶ)、検証可能な主張がなされ(これを「検証可能性」と呼ぶ)、しかも、内部矛盾のない整合的な内容になっている(これを整合性と呼ぶ)ことである。
 特に、生理学、心理学、認知科学の成果に矛盾しないことは最低限重要である。訓練の評価が統計学的手法によって行われる仕組みになっていることも望ましい性質のひとつである。これは定量性とも関連している。
 また、特定の宗教的信仰や政治的イデオロギーに汚染されておらず、思想的に中立的であることも重要と思われる。
 ■SRS速読法は1987年に提唱されたが、それ以後の生理学、認知科学の成果と矛盾することはなく、むしろ、その訓練法と類似の内容が視覚認知学の研究で扱われたり、指導内容が生理学的に支持されるようになった例が少なくない。その成果はすべて統計的に評価される仕組みになっている。その中で個人、集団の成果が評価され、議論される。
 上述の迷路、計算、読書速度などの知的機能に関しては、訓練前の分布が明確になっている。その結果と、最終回(=10週目、または5週目)の結果とから、「どのクラスでも、その最終回に到達した点数(=指標の数値)の平均値は、訓練前の分布における上位から5%以内のレベルに入っている」ことが示されている。
 そこで筆者は、「潜在能力開発」という概念のそもそもの合理的な定義として、特定の指標を定めた上で、「特定期間内に、訓練前の集団値の上位から5%以内のレベルに、その集団の平均値を持ち上げることである」(これを「5%の原理」と略称する)という条件を付加することを提案したい。

6.潜在性
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第6番目は「潜在性」である。
 潜在性とは、システムの下部構造に具体的な効果が認められることである。
 たとえば、体に関しては、不随意システムの一部をなす自律神経系の機能に一定方向の変化が生じたり、不随意運動としての反射機構に具体的な影響が観察されたりすることである。心に関して言えば、潜在意識の働きの一側面である夢や、潜在意識が関わる着想に影響を与えることである。後者は発想の豊かさや創造性の高まりとしても観察される。潜在性はまた、システムの下部構造を具体的に操作する技術を確立する必要性を示唆する。
 ■SRSの場合には、夢に確実な影響があることが知られている。参加者の約90%が夢見の変化を自覚する4、5)。図5は、先に述べた10週コースの第325速読初級クラスの参加者に関して、夢見のどんな側面について何割の人で変化が生じたかを示す。こにでは21の項目がある。19項目に関して過半数の人が変化した6)。
 夢は心に関する下部構造であるが、後に述べる共鳴現象がもうひとつの下部構造での現象である。
 身体の下部構造に関しては、片側指回しに関する現象に注目している。片側の指回し運動をした場合、反対側に不随意運動が誘発され、これに関して訓練による変化が観察されている19)。


7.新規性
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第7番目は「新規性」である。
 新規性には二つの側面がある。
 第一の側面は、その体系の中に、過去の体系では扱われて来なかった現象や領域が存在し、その領域に新しい進歩の活路が設定されていることである。これはその時代の学問よりも先行する側面があることを示唆する。
 新規性の第二の側面は、プログラムに「心身のシステムを新たに構築する」という側面があることである。これを「構築性」と呼ぶことができる。心身の開発法の新技術は、自然発生的なシステムを利用したり活用することよりもむしろ、明確なビジョンをもとに、「心身の特定のシステムを新たに構築するプログラムを整備するものとして確立されるものであると考える。
 ■SRSの場合、新規性の第一の側面は、速読法に関して、読書に関する情報処理のパラダイム変革を目指すことにある。従来の読書を「音の読書」(すなわち、音の情報処理回路を巻き込んだ作業)ととらえ、「光の読書」(すなわち、光の情報処理に純化した作業)にシフトすることで読書速度を加速して速読力を得る。音の読書は上部構造が主として関わり、光の読書には下部構造が主として関わっている。そのために、速読力の獲得は潜在能力開発になるのである。その際に、中心視野の認知システムではなく、周辺視野の認知システムを入力系として重視し、「分散入力」、「並列処理」、「統合出力」という一連の変革されたシステムを実現することを目指す。この過程で人間の情報処理のパラダイム・シフトが完成する。従来の処理の枠組みを、加速という現象を契機として脱出することで、従来は不可能だった作業が可能になる。「分散入力」、「並列処理」、「統合出力」の概念は、新たに構築されるべきシステムの見取り図である。
 SRSの新規性の第二の側面は、従来の科学では研究されて来なかった複数の現象に関して先行的な検討がなされていることである。たとえば、「観色度」という指標がある。これはモノクロ印刷された30種(時には100種)の図形に関して、どのような主観色を感ずるかを詳細に検討する試みで、その指標は速読の進歩と相関が強いことが分かった(未発表)。また、訓練に伴って「閉眼視野」にどのような現象が生ずるかの検討もなされている(未発表)。これも新分野を構成する。閉眼視野に関しては、特に、短時間の指回し体操によって興味深い影響が生ずることも分かった7)。
 従来の科学でも検討がなされてはいたが、心身開発法との関連については未検討であった側面も重要である。電気的刺激に対する感覚閾値や攣縮閾値が速読訓練によって確実に低下していく現象や、速読法の訓練を通じて磁気光視能力が確実に高まっていく現象も、潜在意識の活動を理解し、評価する上で意義があると考えられる8)。

8.総合性
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第8番目は「総合性」である。
 総合性とは、目標とする能力自体は特殊なものであっても、そのアプローチの過程において、複数の関連するシステムを複合的に巻き込んで操作する段階が設定されていることである。その結果として、効果も複数のシステムで派生することが観察される。
 人間の個々の特殊な能力は、独立して存在するものではない。特定の知的機能に関しても、単独で進歩することは稀であり、複数の機能の変化と相関を持ちながら進歩する。
 実際の訓練では、目標にちなんで、特殊化する方向と、総合化する方向を巧みに組み合わせることが必要となる。その際に、人間に組み込まれた機能は、進化の過程に関連して階層的なシステムとして構築されている事実を活用することが有用である。
 ■SRSでは、「総合性」に関して、「知性のピラミッド構造」をモデルとして想定し、その各側面を「総合的に活性化して磨く」方針を貫いている。

精神の一部とか肉体の一部だけを鍛えるという方針は認められない。毎回の訓練では、六つのシステムの働きをそれぞれ刺激し活性化する訓練を行いながら、心身の全体的な能力を高めてゆく。このような方法を取る背景には、「心身にはさまざまな反射のネットワークが存在し、知的機能を効率よく高めるには、知性のみの訓練では不十分かつ非効率的であり、知性以外の適切な身体刺激が加わって初めて心身全体が総合的かつ効率的にレベルアップされる」という認識がある。
 実際、各一分程度の訓練を組み合わせることを通じて、毎回の二時間余の講習で読書速度は約二倍にアップすることが各クラスで確認されている。
 総合的な訓練をする結果、知的機能に関しては広範なレベルアップが認められる9、10)。心象の豊かな発現という形での創造性の向上も認められる。また体調の改善、不調度の改善、四肢末梢速度の顕著な改善も認められる12)。
 心身の諸変化には、相互に相関があることも種々の角度から解析され、ネットワークの具体的な探求が可能である13)。
 運動系はその変動が客観的な指標でもっともとらえやすいサブシステムであり、変化も分かりやすい。一般に、SRSでは、各システムの敏捷性と巧緻性を共に高めるように訓練する。運動系も同様である。
 SRS初級速読法受講者で四肢末梢の速度がどう変わったかを以下に示す14)。対象は69名の成人(平均+-SD=29+-8歳)である。
 手指の運動として、@手指の屈伸運動、A手指の開閉運動、B筆者の提唱する指回し運動(両手の指先をドーム状に合わせ、母指[1指]から小指[5指]までの左右対応する指同士を互いに触れ合わないようにできるだけ速く回す)、足の運動として、C1指2指のこすり運動、D5指の上下運動(外返し運動)、E足先屈伸運動、F足先開閉運動、以上七種の運動を週1回集団で訓練し、30秒間の達成回数を尺度として10週間に亘る変化の度合いを調べた(平均+-SD)。
 その結果は以下のように著明な敏捷性の増加が生じた。
1)手指の屈伸運動(回/30秒)は、(右,左)=(98+-19,98+-21)→(127+-22,122+-20)と増加。
2)手指の開閉運動(回/30秒)は、(右,左)=(82+-21,90+-21)→(120+-26,118+-18)と増加。
3指回し運動の速度(回/30秒)は、(1指,2指,3指,4指,5指)=(80+-18,89+-18,68+-17,48+-20,68+-18)
→(106+-23,121+-31,99+-25,80+-19,99+-21)と増加。
4足の1指2指のこすり運動(回/30秒)は(右,左)=(43+-17,45+-17)→(67+-13,66+-14)と増加。
5)足の5指の上下運動(回/30秒)は、(右,左)=(38+-17,38+-16)→(58+-16,57+-18)と増加。
6)足先の屈伸運動(回/30秒)は、(右,左)=(66+-15,70+-17)→(79+-17,81+-15)と増加。
7)足先の開閉運動(回/30秒)は、(右,左)=(32+-13,29+-15)→(53+-13,53+-15)と増加した。
 以下の図7には、第296速読初級クラス(72名参加)の六システムのそれぞれの元気度の推移を示した12)。これは各システムの好調度を10点満点で示した主観的指標である。10週間前後で比較すると、元気度の増大が認められる。
 図8には、六システムの元気度の合計点の推移を示した。10週間に有意に元気度が漸増する12)。

 図10、11、12、13には、肩こり度、頭痛度、腹痛度、腰痛度の変動を示した。
いずれも速読訓練の経過とともに減少した。すなわち、元気度の増大と不調度の改善が生ずるのである。

左は図7
右は図8


左は図9
右は図10


左は図11
右は図12



9.簡易性
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第9番目は「簡易性」である。
 簡易性とは、個々の訓練自体が具体的に定義され、しかも、簡易に実行可能なことである(すなわちアプローチが容易である)。
 簡易性は現代的な観点から必要である。
 ■SRSの場合には、「簡易性」に関して、個々の訓練は簡単であり、しかも、すべて、1、2分単位で構成されている。イメージ訓練も、共鳴呼吸法と呼ぶ呼吸法もいずれも1分単位で行われる。
 さらに、それぞれの訓練は、実行直後に、体験の自覚、変化の自覚をするように促し、言語的な出力や画像的な出力をするように指導され、成果が短期的にも、長期的にも具体的な形で残るようになっている5)。

10.速効性 
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第10番目は「速効性」である。
 速効性とは、各訓練の成果が短時日に出ることである。それには、毎回の訓練がある程度の即効性を有することが必要条件となる。
 訓練を行う際に、成果が出るまでの時間経過が明確に分かっていることは、効果自体の普遍性を保証することとなり、向上心を維持し、訓練の継続を促すことにも役立つ。
 ■SRSでは、「速効性」に関して、特定のプラグラムは、必ず一定期間内で終わる形になっている。初級速読法では、10週、5週、2日の三種のコースがある。
 前二者は、週1回のペースで講習を行う。2日間のコースでも、成果は表2に示すように確実なレベルアップが生じており、わずか2日で上述した「5%の原理」が達成されている15)。
 また、SRSの運動系の訓練の導入として行われる指回し体操は、極めて簡単な運動だが、3分間で確実な効果が出ることが種々の検討で分かっている16)。
開発法(609)

11.集合性 
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第11番目は「集合性」である。
 集合性とは、個人の心身能力が集団の中でどのように伸びるかを分析し、訓練に最適な集団のあり方を解明し、活用する姿勢である。このことには社会的な意義がある。
 ■実際、SRS能力開発法では、集団の中で訓練することで、その速効性が高まることが確認されている。その現象は「共鳴現象」と名付けられ、種々の統計的な検討がなされている。
 検討の方法は、「共鳴カード」と呼ぶ特殊なカードを用いて、一定の指示の元にデジタル情報やアナログ情報を記入させ、周囲の隣人との一致率を統計的に評価するものである18)。
 共鳴力の制御可能性、確率的な特徴、繰り返しによる変動、身体的特徴との関連、方位差、空間位置や座席配置による影響などが解明されている20−26)。


12.制御性 
 ●心身開発法が備えるべき望ましい特性の第12番目は「制御性」である。
 制御性には個人レベルと集団レベルの二つの側面がある。個人レベルの制御性とは、主体的な意志によって心身をコントロールできる状態を保つことができ、しかもコントロールできる度合いや範囲を訓練によって次第に拡大できる方向性がその体系に備わっていることを言う。集団レベルでの制御性とは、任意に与えられた集団において、指導に応じて進歩の度合いがコントロールできることを言う。
 制御性に問題のある例は薬物使用である。薬物で意識変容体験が生ずることはよく認識されているが、薬物を用いた心身開発法には依存性、後遺症、他の種々の副作用など、危険性が伴い、意志による制御性に乏しい。
 スポーツの分野のドーピングも制御性に問題がある。これは薬物を使用する選手個人の未来に問題を残すのみならず、集団の制御性に不明瞭さを残す。
 制御性の第三の問題例として、物理的な助力を得て潜在能力開発を行う風潮が生まれる可能性も考慮する必要がある。
 心身開発法の基本は、理念として、「本人の主体的意志のもとでの制御性が重要だ」とする考え方を確立しておくことは将来的にも重要であろう。制御不能な心身の潜在能力開発法は危険が伴うことを広く認識させることには社会的な意義があるであろう。
 ■SRSの場合は、自己の心身のみを訓練で用いており、物理的・化学的道具は一切用いない。その結果、従来の意識的自我では制御できなかったシステムが、次第に制御可能になる。
 たとえば、SRSの受講者では、共鳴現象に関しても統計的に有意な制御性が存在することが確認されており20)、夢に関しても次第に制御が可能となる17)。

13.考察とまとめ 
 ●21世紀に発展すべき心身の潜在能力の開発法は、一般論としては、以上に述べた12の特性を備えることが望ましい(表3参照)。その上で、
@「目標とする潜在能力を司るシステムの初期状態をよく自覚する段階」、
A「的確な訓練を通じてそのシステムの制御力を得る段階」、
B「多様な訓練を通じてそのシステムを発展・強化する段階」、
C「そのシステムの制御の度合いを洗練し、範囲を拡大する段階」、
という四つの段階(簡略に示すときには「自覚・制御・強化・洗練」で示す)を辿りながら、人間という生命システムの全般的改善を目指して、最終的には従来の方法論でカバーされていなかった未知の領域も自然に包摂していくことが望ましいと考えられる。
 一般的に、科学上の新パラダイムは、分かりやすい概念モデルの形成を通じて社会的に共有され認められるものとなり、現象を明確に表す用語辞書の整備によってより多くの人が議論に参加できるようになる。従って、心身の諸現象をとらえる概念モデルを検討し、用語辞書を整備することが新パラダイムを確立し共有する上で必須であると考えられる。
 本来、心的現象は主観的なものであるために、概念モデルを提示し、用語の定義を確立した上で議論することは混乱や誤解を避けるために特に重要である。
 また、新技術が社会的に役割を果たす際には、価値観の体系が問題になる。これは過去の科学技術(物理、工学、薬学、医学)が、当初は想定しなかった環境における複雑に連動した局所問題・大局的問題や社会・個人の倫理上の問題を引き起こしてきた歴史を考えると、心身の新技術に関してもその草創期に価値観の問題を論じ始めることが賢明である
 ■SRSの場合には、上述の12の特性を備えた技術体系を整備して、3万5千人以上の訓練を指導してきた。
 その過程で、「精神と身体システムの@加速とA共鳴」という二大コンセプトに基いて知的情報処理のパラダイムシフトを引き起こすように訓練を進めることが、心身の潜在能力開発の最も効率的な道筋であると認識できた5−6)。

関連参考文献
1)栗田昌裕:「システム速読法」、角川書店、1988。
2)栗田昌裕:「身体・精神インタフェイスを賦活して情報処理能力を高めるSRS能力開発プログラム」、第10回ヒューマン・インタフェース。シンポジウム論文集、369−375、1994
3)栗田昌裕:「栗田式スーパーリーディングシステム」、日本潜在脳開発研究所、1995。
4)栗田昌裕:「知力を高める驚異の共鳴速読法」、廣済堂出版、1998。 
5)栗田昌裕:「栗田式・奇跡の速読法」、PHP研究所、1997。
6)栗田昌裕:「速読訓練に伴う夢見の変化とその解析」、人体科学会第9回大会プログラム・発表抄録集、p68〜69、1999年。
7)栗田昌裕:「閉眼状態における指回し運動で誘発された色彩・模様を伴うビジョンの解析」、人体科学会第10回大会プログラム・抄録集、p32〜33、2000。
8)栗田昌裕:「変動磁場による磁気光視現象の速読訓練に伴う変化」、第45回応用物理学関係連合講演会講演予稿集、No.1、p450、1998年。
9)栗田昌裕:「速読訓練による『かなひろいテスト』(ぼけ検出テスト)の年代別改善度の検討」、日本人間工学会第28回関東支部大会講演集、p80−81、1998。
10)栗田昌裕:「数字認知記憶速度の測定法と速読訓練によるその改善度の解析」、医用電子と生体工学、p471,Vol.36、Suppl.、1998。
11)栗田昌裕:「心身の六領域を活性化する知的創造性活性化訓練(スーパー・リーディング・システム)の提案とその成果」、未来・創造世界会議[第二分科会 創造、イノベーション]、国際学会論文集、27−53、1997。
12)栗田昌裕:「速読訓練を軸に展開する知的機能と体調の平行的改善」、人体科学会第8会年次大会プログラム・発表抄録集、p10−11、1999。
13)栗田昌裕:「指回し運動を含む四肢抹消運動の速度と知的活動速度との相関の解析」、第19回バイオメカニズム学術講演会講演予稿集、p191−196、1998。
14)栗田昌裕:「四肢末梢の七種の運動からなる機能的運動療法の提案とそのトレーニング効果に関する基礎的検討」、第5回日本健康教育学会総会、日本健康教育学会誌、vol.4、Suppl.、p178−179、1996。  
15)栗田昌裕:「2日間の速読研修受講者516人の読書速度および知的機能の変化」日本人間工学会誌、vol.34、Suppl.、168−169、1998。  
16)栗田昌裕:「栗田式新指回し体操」、廣済堂出版、1994。  
17)栗田昌裕:「『活夢法』入門」、廣済堂出版、1998。
18)栗田昌裕著:「共鳴力の研究」、PHP研究所、1996。 
19)栗田昌裕、「潜在意識開発法」、KKロングセラーズ、1999。
20)M. Kurita: Analysis of intellectual resonance (or synchronization) usinga card game (2) Comparison among three kinds of trials. Journal of International Society of Life Information Sciences, vol.16(1), 83-99, 1998.
21)M. Kurita:Analysis of intellectual resonance (or synchronization) using a card game (3) Change by the repetition of three kinds of trials. Journal of International Society of Life Information Sciences, vol.16(2), 332-345, 1998. 
22)M. Kurita:Analysis of intellectual resonance (or synchronization) using acard game (4) Characterization by various physiological indices. Journal of International Society of Life Information Sciences, vol.17(1), 170-181, 1999.  
23)M. Kurita:Analysis of intellectual resonance (or synchronization) using acard game (5) Influence of spatial distance. Journal of International Society of Life Information Sciences, vol.17(2), 338-350, 1999.  
24)M. Kurita:Analysis of intellectual resonance (or synchronization) using acard game (6) Influence of repitition within two days. Journal of International Society of Life Information Sciences, vol.18(1), 202-208, 2000.  
25)M. Kurita:Analysis of intellectual resonance (or synchronization) using acard game (7) Influence of seating position. Journal of International Society of Life Information Sciences, vol.18(1), 216-223, 2000.  
1)M. Kurita:Analysis of intellectual resonance (or synchronization) using a card game (8) Spatially Asymmetrical Property of Interactions. Journal of Inte
rnational Society of Life Information Sciences, vol.18(2), 540-545, 2000.

 
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