2日間の速読講習による832人の心身機能の変化

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要旨: 栗田式速読法は1987年に提唱され、1991年から一貫した内容の指導が始まった。以来、2000年末までに362クラスが終了し、1万人以上の生徒の詳細なデータが蓄積されて来た。心身相関を活用して、文字情報の従来の入力・処理・出力を、「分散入力、並列処理、統合出力」と呼ぶ新方式にパラダイムシフトさせるのがその訓練方法の要点である。本研究では、一泊二日の研修を通じて知的機能を含む心身の機能がどのように改善されたかを調べた。対象は、京王プラザホテルで1992年から2000年7月まで年2回、2日間かけて行われた16クラスの参加者で、合計832人の成人である。読書速度は平均850字/分から平均17000字/分で平均17倍になった。計算速度(1分間にできる一桁加算の個数。作業効率の指標)は平均70点から98点となり、平均48%の効率アップを示した。迷路抜け速度(20秒間に抜けることができる単位迷路の個。認知力の指標数)は平均7点から18点になり、約3倍となった。身体の元気度の改善も生じた。2日という短期間におけるこの成果は、周辺視野から潜在意識への経路を活性化し、情報処理の新しいパスウエイを確立して知的活動度を高めることで生じたものである。本研究の結果から、一般成人においてこのような著明な変化を引き起こすことが普遍的に可能であることが示唆された。
Keywords: Kurita's speed reading, information processing, subconsciousness, intellectual function, reading speed, work efficiency, potential ability

1.序論

 栗田式速読法は1987年に提唱された1,2,3)。
 このシステムは知的機能の改善と人間の情報処理のパラダイムの変革を目指す。
訓練の目的は文字に対する情報処理の従来のパラダイムを、「分散入力、並列処理、統合出力」と呼ぶ新方式にシフトさせることである1-7)。
 訓練の要点は、心身相関を独自な方式で活用し、周辺視野から潜在意識への経路を活性化し、情報処理の新しい道筋を確立し、知的機能を改善することである。
 講習の受講者は言語系、心象・感覚系(以下、略して心象系)、感情系自律系運動系、代謝・潜在系(以下、略して潜在系)の六領域を高める訓練を実践する5-7)。
 具体的には、受講者は上述した六つのシステムを一連の独自の方法で刺激して、感覚の閾値を下げ、知的情報処理機構の再編成と加速とを促す一連の訓練を実践する3,6,7)。
 その結果、知的情報処理機能が総合的に向上し、心と体のさまざまな側面が活性化し、読書速度も加速される。
 1991年からは、初級クラス、中級クラス、上級クラスのそれぞれに関して、一貫した内容の速読法の教育が始まった。
 初級クラスには以下の3種類がある。
 初級通常クラスでは、生徒は毎週1回、1ステップずつの内容をマスターしながら、10週間をかけて訓練をする。
 初級集中クラスでは、生徒は毎週1回、2ステップずつの内容をマスターしながら、5週間をかけて訓練をする。
 2日間で行う初級クラスでは、生徒は2日間をかけた訓練を行って、10ステップの内容をマスターする。 
 生徒たちは彼らが参加するクラスの種類に関わらず10ステップからなる同一内容をマスターする。
 1991年10月から2000年12月までの間に、合計362クラスが終了した。1万人以上の生徒の詳細なデータが蓄積されて来た。これらの人とは別に、2万5千人以上が通信教育で初級から上級までの内容を学んできた。
本研究では、初級の2日間の研修を通じて知的機能がどのように改善されたかを調べた。

2.研究の対象と方法

1992年から2000年の7月まで、毎年2回、京王プラザホテルで、2日間の研修が同一のプログラムで計16回開催されてきた。
 この講習では、栗田式速読法の初級クラスの10ステップからなる内容が、7セッションに分割され、2日間で教えられた。
 訓練は、初日は10時から22時まで、翌日は9時から19時まで行われた。実質的な訓練時間は合計19時間である。
 今回の研究の対象は、16クラスの参加者である合計832名の成人である。
 @読書速度、A読書倍率、B迷路抜け速度、C計算速度、という四項目が測定された。
 ここで、読書速度とは1分間に読んだ文字数を示す。訓練の前の読書速度を特に読書の初期速度と呼ぶ。
 読書倍率は訓練の後の読書速度と訓練の前の読書速度(すなわち初期速度)との比率を示す。
 迷路抜け速度とは20秒以内に抜けることができた単位ブロックの個数を示す。これは認知能力の指標である。与えられた迷路は異なる単位ブロックを連結することで作られたものである。
 計算速度とは60秒間に答えを書くことが出来た計算の個数を示す。これは作業効率の指標である。与えられた計算は一桁の加算である。
 1998年7月と2000年7月のクラスに関しては、以下の諸項目も測定された。(対象の人数は合計104名である):
M1) 栗田が提唱した指回し運動8,9)の速度。これは左右の手の対応する指の指先を合わせて丸いドーム状の形を作り、対になった指同士をお互いにお互いの回りを30秒間で回す回数である。親指から小指まで測定する(これは敏捷性の指標とみなされる)。
M2) 中指と薬指を指回し運動として「互いに触れ合わないで」回せる回数。最高を50回までとする(これは巧緻性の指標とみなされる)。
M3) 元気さの主観的な指標。これは言語系、心象系、感情系、自律系、運動系、潜在系のそれぞれについて、1点から10点までで元気さ・好調さの度合いを表現したものである。合計した値を元気度と呼ぶ。

3.結果

 図1、2、3にはそれぞれ、迷路抜け速度、計算速度、読書速度および読書倍率をセッション毎にグラフで示した。
 迷路抜けの初期値の平均値は7.2個であり、最終的な迷路抜け速度の平均値は18.1個だった。平均値の倍率は2.5倍だった。
 計算速度の初期値の平均値は71個であり、最終的な計算速度の平均値は98個だった。平均値の倍率は1.38倍だった。これは作業効率が平均で38%改善したことを示す。
 読書の初速度の平均値は984字/分だった。最終的な読書速度の平均値は17029字/分となった。最終的な読書倍率の平均値は17倍だった。
 図4は、最終的な読書倍率の分布を示す。ここで、[n,m)という記号はn倍以上m倍未満の人を示す。図4は、読書速度に関して、受講者の78%が10倍以上を達成したことを示している。


Fig. 1 迷路抜け速度の平均値の推移
横軸はセッションを示し、縦軸は20秒間に抜けた迷路の個数を示す。
N=832(人)。

迷路変化のグラフ


Fig. 2 計算速度の平均値の推移
横軸はセッションを示し、縦軸は60秒間に出来た一桁加算の個数を示す。
N=832(人)。

計算変化のグラフ


  Fig. 3  読書速度と読書倍率の推移
横軸はセッションを示す。左の縦軸は1分間の読書字数の平均値を示す。
右の縦軸は読書倍率を示す。表はそれらの値を示す。N=832(人)。

セッション S0 S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7
字数(平均) 984 2386 3325 4060 4706 6294 10086 17029
倍率(平均) 1.0 2.4  3.4 4.1 4.8 6.4 10.3 17.3


 Fig. 4 読書の最終倍率の分布
  5倍以上とあるのは、[5,6)倍、すなわち5倍以上かつ6倍未満となった人の割合
を示す。6、7、8、9倍以上も同様。ただし、5倍未満と10倍以上は、文
字通りの意味である。
この講習で832人のうち、78%の人が10倍突破をしたことが分かる。
N=832(人)。

読書の最終倍率の分布


 M1、M2、M3の測定に関しては、以下、矢印の左には訓練前の値、矢印の右には訓練後の値を対にして示す。値はいずれも104人の平均値である。親指から小指までを順番に1指、・・・、5指と呼ぶ。
M1) (1指,2指,3指,4指,5指)
= (71, 82, 66, 46, 68)
→ (102, 103, 84, 62, 83).
M2) (中指, 薬指) = (20.9, 7.8)
→(28.9, 12.2).
M3) (言語系, 心象系, 感情系,
自律系, 運動系, 潜在系)
= (4.6, 6.4, 6.1, 5.9, 5.5, 5.3)
→(7.1, 7.9, 7.8, 7.5, 7.4, 7.6).
 図5は、指回し運動の速度の推移を示す。
 2指に対する値は、82から103に増加し、約1.26倍になっている。4指に対する値は、46から62に増加し、1.35倍になっている。
この結果は、運動系の敏捷性が高まったことを示す。

Fig. 5  指回し運動の速度(30秒間にできる指回し運動の回数)
  104人の平均値を示す。敏捷性の尺度を示す。

指回し運動の変化


 図6は、中指と薬指に対する「触れ合わないで回す」指回しの回数を示す。中指に対する値は、20.9から28.9に増加し、約1.38倍になっている。薬指に対する値は、7.8から12.2に増加し、1.56倍になっている。
この結果は、運動系の巧緻性が高まったことを示す。

 Fig. 6 触れ合わないで回す指回し運動の回数
   104人の平均値を示す。巧緻性の尺度を示す。

指回し運動の巧緻性


  図7は、元気度の値を示す。図は、元気度が合計33.8点から合計45.3点まで増加したことを示す。その増加は34%である。


  Fig. 7 六つのシステムの元気度(好調度)の変化
104人の平均値を示す。各システムは10点満点で自己評価をした。
合計は33.8(訓練前)から45.3(訓練後)になった。

元気度の変化


4.考察

 健康成人の三種の知的機能が短期間の訓練でどの程度向上するかについて、具体的なデータと興味深い知見が得られた。
 上記の諸結果は10週間にわたって毎週1回訓練されるクラスの成果5,10)と同程度である。
 本研究の結果から、一般成人においてこのような著明な変化を引き起こすことが普遍的に可能であることが示唆された。
 訓練の過程で測定された種々の主観的・客観的データを総合的に判断すると、知的機能を短期間で高める鍵は以下の2点に存在すると考えられた:
 @心身を総合的にレベルアップする訓練の実践。
 A周辺視野を用いた従来とは異なる認知機構の構築。
 上記の諸結果では、運動系の敏捷性・巧緻性の改善が生じることと、心身全体の元気度が高まることも示された。
 すなわち、この方法は、健康を高める方法としての意義を有する。
本研究の方法によれば、その成果は2日間という非常に短期間で達成できる。

[参考文献]

1) 栗田昌裕:システム速読法. 角川書店,1988.
2) 栗田昌裕:人生を拓くSRS速読法. 文藝春秋社,1989.
3) 栗田昌裕:栗田式SUPER READING SYSTEM. 日本潜在脳開発研究所,1989
4) 栗田昌裕:栗田博士の速読法であなたの能力は全開する. KKロングセラーズ, 1993.
5) 栗田昌裕:心身の六領域を活性化する知的創造性活性化訓練(スーパー・リーディング・システム)の提案とその成果. 未来・創造世界会議[第二分科会 創造,イノベーション]国際学会論文集, 27-53,1997.
6) 栗田昌裕:奇跡を呼ぶ速読法.PHP研究所, 1997.
7) 栗田昌裕:知力を高める驚異の共鳴速読法. 廣済堂, 1998.
8) 栗田昌裕:奇跡を呼ぶ指回し体操.廣済堂, 1992.
9) Kurita M.: Effects of bilateral finger rotation exercise on flexibility and the efficiency of intellectual performance. Biobehavioral Self-Regulation・・・Eastern and Western perspectives Eds. T.Kikuchi,H.Sakuma,I.Saito,& K.Tsuboi, 14-19, Springer Verlag Tokyo, 1995.
10) Kurita M.: Proposal and training effect of functional ergotherapy consisting of 10 different exercises. Journal of World Traditional Medicine, vol.1, p83,1998.

【以上の内容は、2001年2月の国際生命情報科学会で
報告され、
Journal of International Society of Life Information Sciences
に掲載されています】


 
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