取材記事。雑誌「省エネルギー」取材記事(2004年3月30日号)

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  以下の記事は、雑誌「省エネルギー」の4月号:
 「省エネルギー 4」 財団法人/省エネルギーセンター
 (JOURNAL OF ENERGY CONSERVATION Vol.56 / No.5 2004 APRIL)

 「時世の地平線 一本の樹木に”地球”を観る」
というタイトルで掲載された巻頭インタビュー記事を、許可を得て転載したものです
(但し、レイアウトはHP用に変更しましたので、記事のままではありません)。
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時世の地平線  その四

          無数の生き物たちが地球上のエネルギーの
          恩恵にあずかろうとした「実験」の歴史のなかに,
          環境と生き物が活路を見出す雛形があるのです。
                             栗田 昌裕医学博士
(撮影:久保雅督) 

                     
 本連載の初回では,「技術の進歩は心の進化と表裏一体である」という見解が示され,新たなテクノロジーの創造をもたらす意識の変革が期された。
そこで,まさに人間自体の情報処理革命を追求し,心という小宇宙を旅する“ガイド”を果たしている医師・栗田昌裕博士の存在を追うことにした。
 医師として治療に打ち込むとともに,栗田博士は速読法を中心とする能力開発法を教えるSRS研究所を主宰し,“地球の能力開発”をめざしている。人々と花たちの静かな熱気に包まれて講座が開かれるSRS千駄木教室を訪ね,その透徹した眼に映った自然の姿と意識変革の可能性を聞いた。
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一本の樹木に「地球」を観る

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意識のあり方を省みる時代

……栗田先生は,常に地球の生命史というスケールのなかで時代を認識されていますね。21世紀を迎えた人類はいま,どのような局面にあるのでしょうか。

 人間が意識として捉えていたものが,これまでとは違った方向に捉え直しをされていく時代ではないかと予感しています。従来は“音韻言語”,すなわち耳から聞いて言葉で反応する能力を主体にして人間のコミュニケーションが成り立ち,それが意識というものをつくっていました。文化というものも,音韻言語が中心になって人間の歴史のなかでつくられ,それに視覚的な言語(文字)が加わってきたわけです。そして,教育を施すことで皆が共通の土台でものを考え,都市を形成し,自然に対処する,ということが過去何世紀もなされてきたのです。それが再考されて,意識とは何だろうか,また,今後どんな意識があり得るのだろうか,そういうことを人々が考え始める世紀になるだろうと私は予感しています。
 そのきっかけは,自然環境に関する情報が増大したことと関係があると思います。地球上の生き物について断片的にしか知らなかった時代には,私たちの頭にある自然に対するイメージはとても単純なものでしたが,次第に自然は単純ではなく,簡単にコントロールできないということもわかってきました。地球上の自然の多様性に対処するためには,自分自身が変わらなければいけないのです。非常に複雑で,不可解で,予測ができない,そんな生態系と同じようなレベルのシステムを内面につくる必要性がますます認識されるのが今世紀前半,そして,21世紀の後半に差しかかって,それが意識の技術,精神の技術として広がりをみせていく時代になればと位置づけています。


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スーパーリーディングと共鳴力

……先生が提唱されている能力開発の大系は,その精神の技術を磨く方法ということですね。

 SRS能力開発は,まさに21世紀に必要とされる精神の技術の先駆けをめざすものです。そのポイントを一言でいうと,“スーパーリーディング”というキーワードが重要で,これは音韻言語を操ってコミュニケーションを交わす言語意識に依らない読み方をまず理解し,身につけ,活用していくという考え方です。その特徴は,入力,処理,出力という情報処理の3つのプロセスを,従来とは違った形に構築していくことにあります。
 従来,人間は目から入力する情報を音韻言語の回路を使って処理していました。ところが,人間以外のあらゆる生命体はそうした“音の回路”を持っていません。人間はもう一度,生命体の原点に戻って,地球上の何千万種という生き物たちが音韻言語など何も知らなくても,きちんと情報を処理し,多様に生き延びているという事実を知る時代なのです。するとそこに新しい無数の活路が拓かれ,人間の意識も従来とは違った形で自身の思念や願望を捉えたり,想像力や発想をふくらませたりすることでしょう。それを可能にするのが,私が“分散入力”,“並列処理”,“統合出力”という言葉で推進している情報処理のプロセスなのです。このような精神の技術は,複雑な自然に対処する道筋を見出していく能力として,とくに今世紀の後半に現実化するであろうと思っています。

……もう一つのキーワードとして強調されている “共鳴”とは,どのような概念でしょうか。

共鳴とは,2つのシステムがお互いに言語を超えて連携して動く現象です。たとえば核磁気共鳴のような微小レベルの共鳴や音叉のようなより大きなレベルの共鳴がよく知られています。さらに,もっと漠然とした科学では捉えられていない共鳴現象もあるかもしれません。このような共鳴という概念は,複数のシステムが相互に影響を与えあう方式の全体と捉えてもよいと思います。
 人間もまた地球に生まれ育ち,社会生活を営むなかで,環境との間にさまざまな共鳴を体験しているといえます。このことはこれまで言語化されていなかったため,ほとんど気づかれなかったわけです。しかし,私は共鳴というものが実は人生を動かし,社会を動かしてきたのだと捉えています。共鳴力に目覚めると,環境から驚くべき影響を受けてきた経緯がわかってくると思います。だから,外界の自然とそれに対峙している内面の意識との間に共鳴を引き起こさなくては,自然環境に対処することはできないわけです。


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「植物の意識の海」への回帰

……『共鳴力の研究』(PHP研究所)には,「1歳以前から植物の発する雰囲気の場のなかで育ったことが,私の原点になっている」と書かれていますね。

 私は愛知県の知多半島で生まれたのですが,とても平和な環境のなかで幼少期を過ごしました。母が教師をしていたため,昼間は祖母と過ごす時間が多かったのですが,祖母はじっとしていることがきらいで,生家の寺の周囲や離れたところにある畑や水田でよく仕事をしていました。物心つく前から,祖母に連れられて山林の木々に接したり,ウサギの餌になるタンポポを採ったりしたことが思い出されます。あたかも「植物の意識の海」のなかで育ったかのような小さい頃の記憶は,言語化されない形で私のなかに組み込まれていったのでしょう。私の原点は,そのような植物の意識空間にあったことは間違いないようなのです。
 しかし,私にはその対極にある数学の世界に入っていく時代がありました。数学というのは自然の多様性とはまったくかけ離れた抽象の産物です。つまり,大学院で数学を専攻するまでに両極端の世界を体験したわけで,多様な共鳴が起きていた自然界から離れ,抽象の世界を突き詰めていたのです。そこまで行ってしまうと,これはまずいぞ,人間が本来あるべき姿とは違うぞ,と思い直すようになり,もう一度,子どもの頃に浸っていた世界に還るために中間地点に戻ってきたのです。


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生き物たちの生命戦略に学ぶ

 それが医学への転身につながったとともに,人間の能力とは何だろうかと考えてきたなかで,私は自分なりにスーパーリーディングが成立するということを見出していました。そして,80年代に交通事故による療養生活を契機として,これまで体得したことを大系化し,皆さんに教える成熟の時期を迎えたわけです。その入り口とした速読法は,わかりやすい形で意識変革を体験できる点が現代的でした。能力開発を何に活かすべきかというと,やはり地球の自然とその多様性を知ってもらうということが私の本来の趣旨なのです。

……それが“地球の能力開発”ということですね。

 地球のことをほとんど知らなかった私たちは,20世紀後半になってようやく生物多様性の大切さに気づき,それを守ろうという意識も生まれました。したがって,地球の自然が織りなす生態系の意義を知ることと,エネルギーというものに対する考え方が変わることは表裏一体の問題であり,私の言葉では,“共鳴”しているのです。
エネルギーという概念は,これまで量的な発想で捉えられてきました。そのため,ここ何世紀かの間に大量のエネルギーを自由に使えるような生活が豊かであり,力だという価値観が生まれたのです。ところが,量的な発想だけを追求していると,やがて自然との間に破綻があるということがわかってきました。ようやく人間は,自らを生み育てた地球そのものの有限性に気づいたのです。
 一方,地球上ではどうなっていたのかというと,生き物たちが多様な遺伝子を生み出すことで,エネルギーを最適に利用する生態系というシステムをつくってきました。これは恐るべきことで,無数の生き物たちが地球上のエネルギーの恩恵にあずかろうとした「実験」の歴史のなかに,環境と生き物が活路を見出す雛形があるのです。

……生態系のなかに省エネルギーのヒントが…。

 30数億年をかけた生命戦略の歴史を顧みると,量的な拡大に走ったものは必ず滅んでいることがわかります。そこでもう一度,地球の自然と共鳴し,多様な生き物たちがエネルギーを最適に利用してきた生命史を学ぼうというのが,“地球の能力開発のエネルギー版”ともいうべきものです。そのためには,私たちに豊かな情報処理能力がなくてはいけません。人間自体が内面に多様性というものを操作できるキャパシティを持てば,それに応じて新しいテクノロジーも生まれ,多様なリアクションが可能になると確信しています。


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「時・物・空」の地平線を読む

……この連載は,タイムホライズンの彼方を見通し,次世代へのメッセージを紡ぐものです。先生は,目線を地平線に向ける歩行法をすすめていますね。

 私たちが平原にいたときには目線は地平線にあったのですが,直立して内面に関心が移るようになると,地平線は見えなくなってしまいました。そこで歩行する際に目線を仮想上の大地の果てに向けてみると,太古に培ってきた姿勢制御システムが再構築されるのです。身体という土台が整い,地平線が見えるようになると,意識が広がって数億年の歴史が動くようになります。スーパーリーディングというのは,基本的には時間・物質・空
間の地平線を見ることです。この3つについて,自分のナワバリの中枢から地平線に至るまで読みとっていくと,そこに一つの限りある地球が見え,未来が見えてくることでしょう。


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大いなる地球を愛でるセンス

……1本の樹木を見るときにも,先生の目には多くのものが映っていることと思います。
「風を見る」という視覚体験とはどのようなものでしょうか。

 樹木を見るときに,視野が小さいと葉や枝しか見えませんが,少し広い目で見ると1本全体の木の動きがわかります。さらに視野を広げると10本,100本の木が見えてきます。すると,その100本を動かしているものが見えてくる…。それが「風を見る」体験です。多くの情報を同時にモニターできると,そこに地球の動きが見えてくるのです。
 私たちが未来の方向性を考えるときに大事なのは,「30数億年の歴史を支えているこの地球っていいものなんだ」という感性だと思います。一本の樹木を見ても,与えられた光や水や栄養が限られたなかで,どんな姿をとれば最適に生きられるのかということを葉や枝が教えてくれています。すべての樹木が,時間・物質・空間の最適性を読み,実現しているという事実があり,その木々がこの地球上には無数にあるのです。そうした目でお庭の木や街路樹を見ると,想像力がふくらんで楽しいですよね。そんな感性でエネルギーについても考えてみたら,きっと次世代のテクノロジーを生み出すことができると期待しています。

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栗田 昌裕Kurita, Masahiro
1951年愛知県生まれ。医学・薬学博士。東京大学理学部卒業。東京大学大学院修士課程修了(数学専攻)。東京大学医学部卒業。現在,東大病院内科医師(届出診療医),群馬パース学園短期大学教授,SRS研究所(http://www.srs21.com/)所長を兼任。座禅,ヨーガ,気功,東洋医学など多彩な能力開発を実践的に体得。文部大臣認可・生涯学習開発財団認定の唯一の速読マスター。著書多数。
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