「作家・鈴木光司氏との対談《第1回》」

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自分を活かす読書のススメ
 雑誌「ダヴィンチ」の企画によって、「リング」、「らせん」、「ループ」などで一世を風靡した鈴木光司氏と対談する機会があった。2001年8月号に掲載された対談の第一回の内容を紹介する。
潜在意識の活用のヒントを得てほしい。
 SRS速読法提唱者栗田昌裕博士と作家鈴木光司氏が探る「読むヒント」
  鈴木光司氏は自著「シーズザデイ」にこう書いた。
『人生が生きるに値するという手応えを、逃さずに、その手でつかめ』と。
一方、栗田昌裕博士は、速読の提唱を通して人間の未開発の実力を引き出す方法
を説き、読者の支持を集めている。この二人が会して始まった、人生をハッピー
にするための読書論。
既成概念を抜け出して、あなたも考えてみよう。そして、ワンパターンの読書に
味付けしよう。一生で過ごす時間と出会う本に、限りない満足を味わうために。



<潜在意識のヴィジョンの中で読む>
 栗田 ■鈴木さんは、すでに小学校で初めての小説を書かれたとか。
 鈴木 ●「楽園」の出発点は、小学校の頃に書いた原稿かなあ(笑)。太宰治とか坂口安吾とかを読んで、早くから作家という生き方にあこがれを持ってはいました。自由な生き方、そこに魅かれて。作家になるなら文学の基礎くらい学ばないと、ということで文学部を選んだし、卒業後はシナリオスクールで小説を書いていたし。子育ての傍ら書きたいテーマも見えてきて、先生や仲間からは自信を与えられ、いけるんじゃないかと確証
をつかんだころに「リング」を書き始めていました。
 栗田 ■本もたくさん読んで?
 鈴木 ●いやあ、僕はね、すごい読み方遅いんですよ。特に小説。ハードカバーなら1時間で50ページ程度。登場人物の動きをイメージとして思い浮かべるから、頭の中に映像が流れるのを追うようなかたちでゆっくり読むんです。その映像がクリアになり、フィルムが回るようにペースが整っていれば、それがとてもノッている状態。
 栗田 ■潜在意識の大きなヴィジョンの中で読書を楽しんでいらっしゃるんですね。それは書くときもそうですか? いつも午前中に喫茶店で15シーンほどイメージして、それを午後に文章化しているというお話ですよね。(編集部注・栗田博士は、直前
に渡された鈴木氏の資料および著作10冊以上をすべて速読して取材に臨んでいた!)
 鈴木 ●参った、僕より僕を知っていらっしゃる。そうなんです、
書くときも、まずは登場人物の輪郭や背景をクリアにイメージするんです。そうすると頭の中でキャラクターが動いてくれて、僕はそれを書き取っていくだけ。
 栗田 ■なるほど、読む才能そのままに書いているということかな。じゃあ、もっとその仕組みを掘り下げていきましょう。学生時代には随分先端的なことを学ばれていますが、そのときはどんなふうに読んでいらっしゃいましたか?
 鈴木 ●生物学から遺伝学、哲学まで、すべて素朴な問いや興味から入ってました。

<ハッピーに読むクリエイティブに書く>
 栗田 ■「天才たちのDNA」を読ませていただいたんですけど、その冒頭に作家の才能について書かれていましたよね。豊かな世界を創り出すイマジネーション、それを表現化するテクニック、創意を支えるモチベーション、よりすばやく鮮明に描くためのコンセントレーション、つまり集中力ですね。最後にそれらを総合するシンセサシス。これらはそのまま、鈴木さんの強力な潜在意識の力を説明するキーワードだと思うんですが。
 鈴木 ●あ、それはありますね。
 栗田 ■その強力な感覚が小説のクリエイションに結実していますよね。鈴木さんの本によく登場する、人間の運命をつかめというモチーフも、自分の背後や一段上の領域に前向きに興味を持っていらっしゃるパワフルな姿勢から生まれてくるものなんでしょう。
鈴木 ●ありがとうございます。
 栗田 ■人間は、自分がすでに知っている土俵と、知っていそうだという土俵、全く知らない土俵とを使い分けて、ものを読んだり書いたりしているんです。知っていそう、あるいは全然知らないという土俵が無意識とか潜在意識の領域だとすると、鈴木さんの作品群には、その領域に立ち向かう姿勢が出ている。宮台(真司)さんもある本の巻末の解説でそのようなことをおっしゃってましたが、僕も同じことを思いました。読むとき書くとき、自分の固定概念のカセを解放して、『知らない』領域に立ち会ってみることが読み書きの大事な原点。そのスタイルをうまく使うことで、ハッピーに読めたり、クリエイティブに書けたりということが起きるような気がするんです。
 鈴木 ●わかりますねえ。子供の頃に自分は小説家になるんだと決めた辺りから、僕はそのような感覚に動かされてきたように思います。

<使おうと意識するところから力は生まれる>
 栗田 ■世の中には言うたびに違うことを言う人がいたりしますが、鈴木さんにはそれがないでしょう。
 鈴木 ●そうそう、正直者ですから(笑)。
 栗田 ■そのわかりやすさも強力な潜在意識のなせる技。揺るぎないということですから。鈴木さんには、これまで自然にはぐくんできた潜在意識の操作法のようなものがあって、それが小説家になる力をストレートに花開かせたんじゃないでしょうか。
 鈴木 ●よく人から、小説書きたいんだけど、どうやって書いたらいいんですかって聞かれるんですよ。その時必ず言わなくちゃと思うのが、『意識ではなく、潜在意識の力を利用して書きなさい』ってことなんです。でも、それ聞いて、ほとんどの人はなんのことだかわからない。確かに言葉にするのは難しいんですけど。ただ、使おうと意識すれば必ず新たに働きだす力は誰にでもあるんです。それは何かと悩むより、うまく引き出すために自分でいろいろ挑戦して試して欲しいんですけどね。使えないことには一生わからないし。
 栗田 ■うん、その通り。潜在意識と一言で言っても、その働きにはいろいろな側面がありますからね。
 鈴木 ●大学で小説を勉強していた頃、書くということはすべて意識的な作業だと思い込んでいたんです。意味や象徴などが意図的に配置されるものなんだと。ところが作家になってみれば、そんなことは全くやらないんですよね。とにかくイメージを追って筆を運ぶ。それを後で読み返したときに、書いた時には思いもしなかったけれど、実は幼いころの体験や記憶に基づいていた、なんてことに気づいたりして。僕自身は、その時に、自分の中に蓄積された潜在意識が身体の奥からアイデアを押し上げてきて書かせているなという感
覚をつかんだんですよ。
 栗田 ■鈴木さんは言葉でうまく説明できないとおっしゃいましたが、私の場合は鈴木さんのような読書を誰もが簡単に楽しめるよう、速読を通して潜在領域のキャパシティを広げる訓練を提唱しています。読む行為を通じて人生を有意義に過ごすのは実は簡単なことなんですよ。それは読むスピードに大いに関係がある。速く読めば、イメージの力はもっと強くなりますよ。
 鈴木 ●おおっ。僕の知りたい核心に近づいてきましたね。 〈次回に続く〉

<メモ>
●鈴木光司(こうじ):1957年、静岡県出身。慶應大学仏文科卒。1990年「楽園」で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。濃密な文体の中にあらゆる恐怖を描き込んだ「リング」、吉川英治文学新人賞を受賞した「らせん」、三部作完結編の「ループ」など、メッセージ性の強いエンタテインメントを発表し、日本文学に新境地を拓いた。新刊は「シーズザデイ」。他著に「父性の誕生」「涙」「新しい歌を歌え」などがある。
●「シーズザデイ」/新潮社。「天才たちのDNA 才能の謎に迫る」/マガジンハウス。
 「楽園」/新潮社。
 
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