取材記事。「医道の日本」インタビュー:治療センスの磨き方
(04年2月1日号)

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「医道の日本」巻頭インタビュー:

 栗田昌裕氏に聞く〜治療センスの磨き方


 以下、月刊誌 「医道の日本」第724号(2004年2月1日号、11〜19頁)に
 上記のタイトルのもとで掲載された記事を掲載します。

目次
1■ 栗田昌裕氏インタビュー
2■ 指が回れば心も回る
3■「ひねりきまわ療法」ではダメ
4■「まわひねりき療法」で治療センスを
5■映像から本質をつかんでほしい

【付記】 医道の日本社発売の栗田博士のビデオ・シリーズは以下の通り。
     問い合わせは、フリーコール 0120−2161−02 
     ご注文は、  ファックス  046−865−2707 医道の日本社
 
     1)「栗田博士の能力開発シリーズ・・・
        体も頭もよくなる回転健康法」
     2)「栗田博士の臨床シリーズ・・・
        まわひねりき療法 五十肩編」
     3)「栗田博士の臨床シリーズ・・・
        まわひねりき療法 腰痛編」

健康法、速読法、視力回復法・・・そんな数々の能力開発を世に送り出し、そのたびに反響を巻き起こしてきたSRS研究所所長、栗田昌裕博士。100冊以上の著作に、テレビに雑誌とメディアに引っ張りだこである博士は、能力開発として手広いジャンルを手がけながらもその専門性が失われることはなく、それどころかその道1本の専門家が裸足で逃げ出すような効果を実証してきた。今回のインタビューでは、弊社からシリーズで発行している「回転健康法」「まわひねりき療法」の誕生のきっかけやそのメカニズム、発想法を追いながら、治療家・栗田昌裕にクローズアップした。


1■ 栗田昌裕氏インタビュー

――能力開発に興味を持たれたのはいつごろからでしょうか
栗田■ 能力開発自体に興味を持ったのは小学生の頃です。その頃から記憶とか頭を使うこと自体に興味があって、いろんな本を読んだりして、自分の持っている頭脳を全部使ってみたいと考えたのです。図鑑や事典を全部覚えようなどということをしていました。

――ということは小学校の頃、周りは神童を見るような目だったのですか
栗田■ いえいえ、普通の田舎の子です。(笑)愛知県の知多半島が出身で、とても自然が好きでしたので、自然の中を歩き回ったり走り回ったり、そういう子でした。

――そういった経験が今ベストセラーになっている「目がどんどん良くなる本」に生かされているのですか
栗田■ そうです。恵まれた自然に小さい頃から積極的に親しんでいましたので、その頃の感性が能力開発の土台になるといいと考えています。その素晴らしさ、面白さ、楽しさ、そういうものを少しでも分かってもらいたいと考えて、散歩法や旅行法といった方法で自然のさまざまな側面に触れていくことをお勧めしているわけです。
 小学校を卒業してからは、中学校、高校と進むにつれて分野が広がりました。一時期、数学の分野に狭めていったのですけれども、狭め過ぎてこれはまずい、もう一度もっと幅の広い泥臭いことをやりたいなと思い医学に転じました。医学に転じたときには、自分の人生には3つのライフ・テーマがあると考えました。1つは医療です。もう1つは教育。もう1つは道を求め続けるという意味の求道。この3つが自分のライフ・テーマだと考えて、以後、その中で活動してきたわけです。


2■ 指が回れば心も回る

――ではその3つのうちの1つである医療について今回はお聞きしたいと思います。まずテレビ番組などで紹介されて一躍有名になった「指回し健康法」についてですが、これは「指回し体操」とも呼ばれていますがもともとの名称はなんですか
栗田■ もともとは「指回し体操」と言っていました。基本的には能力開発の一環として生み出したものです。ところが、たまたまテレビに出たときに健康法という側面でアピールすることになって、それから健康法として認知されていったようです。

――視聴者からの反響は大きかったですか
栗田■ ええ、視聴率も非常に高かったし、指回しの効果に対する反響が非常に大きかったですね。そこで指回しシリーズが健康本として出ることになりました。しかし、もともとのオリジナルな指回しは、能力開発をいかに促進するかという側面から生まれてきたものです。

――指回しを考案したきっかけは何ですか。
栗田■ 私が指回しを人に教えるようになったのは、速読が一番のきっかけです。速読法を指導しているとき、進歩が遅れる人たちを何とかしたい、そう考えたときに、進歩が遅れる人には特徴があることに気付きました。一言で言うと不器用。つまり運動系のコントロールがうまくないのです。その運動系のコントロールを改善することによって、ほかのシステムのコントロールを改善するためのひな形モデルとしてまず「指回し」をすることにしたのです。最もシンプルで、最も有効な運動で、全身のシステムの状態を代表するものは何か、と突き詰めて指回しを考えたのです。考えた背景には進化の流れに対する考察もありますし、またシステムに対する数学的なとらえ方もあります。

――それで実際にやらせてみると効果があったわけですね
栗田■ ええ。予想外の大きな効果がありました。当初は知的機能を高めるために作ったものなのですけれども、実際には自律神経、それから柔軟度で非常に大きな即効があることが分かりました。特に柔軟度の変化は数分で分かることですから、テレビで評判になって、本も多く売れ、また「指回し」という名前が世の中に知られるきっかけになりました。

――指回し運動は試行錯誤をして生み出したのでしょうか。それとも直観でしょうか
栗田■ 最初はやはり直観です。試行というものは直観を表現する方法であって、人に説明するための段階が試行であり、説得する道具が言語的な説明です。そのバックグラウンドには直観があるのです。

――つまり、何らかの試行錯誤があって指にたどり着いたのではなく、もう直観で指しかないと
栗田■ ええ。その直観はどこからくるかというと、過去の人生のあらゆる大局的なものを無意識の世界では常に検討しているわけです。無意識の世界で検討したその結論が直観となるのです。そこで実際に多くの人に実践させたところ、驚くような柔軟効果や身体の改善効果が出たので、インスピレーションが後で証明されたことになっているのです。

――今回、医道の日本では指以外のところも回転させる「回転健康法」としてビデオで紹介しました
栗田■ 基本的には人体がちゃんと動いているかどうかは、各部分がちゃんと回るかどうかで分かる、と考えるとよいと思います。だから、首、肩、肘、手、腰、足すべて回してみる。それがきちんと回るかどうかを点検すると、回せないところでひずみや不調が自覚できるのです。
ただし、指回しにはもっと深い意義があって、その特徴は、単に回すことではなくて、人間の進化の最後に生まれた「微細な空間認知運動」を活性化するための運動だということです。だから、「指を回す、しかも精密に回す」ことの背後には、ほ乳類が進化する過程で昔から作り上げてきた心身システムのピラミッドの頂点を活性化する意義が込められているのです。それがちゃんとできるようにするのが、指回しの本来の趣旨です。

――ではその指回しを含めた「回転健康法」を治療家が患者指導に使うような形でアプローチする方法はありますか
栗田■ 回すことを点検と改善の技術として患者に指導するのはとても大事だと思います。本人のできないところを治療家がサポートしてあげればいいわけです。うまく回らないことを自覚できない人もいますよね。そういう人にちゃんと自覚させてあげるわけです。

――つまり、回すことの重要性を患者さんに教えて、それを実際に実践してもらうことで、治療効果も上がってくるということですか
栗田■ そういうことです。こういうふうにちゃんと回っていませんよ、と教えてあげることがとても大事なのです。本人は回っているつもりでも、回っていないのです。目玉だって回せますし、中指や薬指も回せるのですから、そういったところも含めてすべてちゃんと回るかどうかはとても大きな問題です。

――局所が回らなければトータルでも回らなくなるということですね
栗田■ 指が回れば心も回る。心が回れば知識も回るわけです。指が回っていないということは、心も回っていないわけだし、過去の知識や体験も「回っていない」、つまり生きていないわけです。回すことは、自分の持っているものを生かす基本です。それを解剖学で考えてしまうと、訳が分からなくなる。だから、骨がどうかとか、関節がどうかなどはむしろ後で考えること。つまり骨があってから回るようになったのではなくて、回すために骨ができたわけです。回すために筋肉ができたのです。そこを逆に考えている人がいる。勉強した人ほど、そこを勘違いして、筋肉を何十個理解しなければ、人体の動きが分からないというふうに考えるのです。それは違います。

――回っていることが生きている証だと
栗田■証なのです。あらゆるものは回っている。あらゆる関節は回っているのです。


3■「ひねりきまわ療法」ではダメ

――次に「まわひねりき療法」についてお聞きしたいのですが、これはどのように生まれたのですか
栗田■ 実は医学をやる前から、治療には興味がありました。そこには東洋医学も含まれていて、手技の能力はもともと持っていたのです。それから医者になり、実際に悩んでいる人に接する御縁が生まれ、さらに指回しの本をきっかけにいわゆる不定愁訴を持った調子が悪い人たちがたくさん私の外来に押し寄せてきました。そのときに私の本来持っているいろんな技術を使う場ができたのです。
その中で個人的な技を体系化して指導するときに、どう指導したら最短の時間で効果が出せるかなと考えて、その本質を「回す」こと、「ひねる」こと、「力む」ことという3つのキーワードにまとめたわけです。特に五十肩に関して、この3つをきちんと実行すると非常に即効があることが分かりましたので、日本手技療法学会で紹介するときに「まわひねりき」という言葉を使ったわけです。

――そうすると「まわひねりき」に関しては指回しとは違ってインスピレーションではなかったわけですね
栗田■ 要するに私がやっていることを、言葉に表すとこういうことですよということです(笑)。だから、やはりインスピレーションです。患者さんを診ながら、大局と局所をつないで最短時間で改善する。最小のエネルギーと最短の時間で不調を解消するために、私は何をすればいいかと考えたときに、浮上した技術なのです。それを形に表すと、「まわひねりき」という言葉になっているわけです。まわひねりきは、「回す+ひねる+力む」なのですが、ひらがなの系列自体にも言霊としての意味があります。そこはインスピレーションなので簡単には説明できません。
ただ、回すことの背景には、指回し健康法とつながるものがあります。つまり回転するということは、先ほど言いましたように、私たちの運動の基本なのです。しかも、その回転を司る中枢は、知性制御の一番大きな課題に関わっているのです。たとえば、私たちが動き、姿勢を取っている根本は姿勢制御システムですが、その土台の一角に三半規管があります。三半規管は3つの方向にパイプがあって、その中で加速と回転をモニターしています。外界の知的な認知はその解析をもとに構築されます。この例で分かるように、回転をどうとらえるかは、人間の姿勢制御と知的情報処理の根本につながっています。
だから、心身を問題にするときには、「回すこと」をまず最初に扱わないといけない。その「回すこと」が局所でも大局でも起きるときに、複雑な相互関係を作ってくるわけで、そこにひずみがある場合はそれをどう改善するかが治療の根本です。その不調の大本を最小刺激と最短時間で改善するのが、「まわひねりき」の概念なのです。だから、単なる治療の技術ではなくて、健康法の技術でもあるし、また生活の技術にもなるわけです。

――「ひねりきまわ」では駄目だということですね
栗田■ だめです。まず回すことです。それでひねる。そしてしかるべきところで、きちんと何かを「込める」、つまり力む。力むには力を「込める」だけでなく、心を「込める」という側面もあります。

――ビデオでは「まわひねりき、まわひねりき」と呪文のように唱えています。あれも一種の込めることになっているのでしょうか
栗田■その通りです。リズムが大事なのです。回す、ひねる、力む、この3拍子。その流れの中で、より本質に食い込んでいくわけです。だから、「ホップ・ステップ・ジャンプ」のような理屈があるわけです。治療の場合、患者さんの治療ポイントを扱いますが、治療ポイントに対して、3層から攻めているのです。
3層というのは、回すことによって大局の場をとらえてそこを改善し、ひねることでそ大局の問題を局所に集約し、力むことでその局所に刺激を与えて問題を解消する、そういう3段構造になっているのです。だから、回してひねって力む、回してひねって力む、その順番に見るわけです。
 たとえば五十肩の治療の場合、まず肩のしかるべきところに片手の親指を当てます。そこが目標となる刺激ポイントなのですが、術者の反対の手で患者の腕を回すことでスタートします。これが第1段階です。回すのは2、3秒でよい。2、3秒かけて回し始めることによって、大局の場が動き始めます。それにある種のひねりを加えることによって、大局の問題点がポイントに集約し始めます。つまり、場が患部に向かってある状態を生み出すように整えていくのです。その最も理想的な場になったときが、「まわひね」という状態です。そこに「りき」という力を加えることによって、ひずみを最小のエネルギーで改善する仕組みになっているのです。だから、五十肩の人の肩は本当に10秒もあれば、「まわひねりき」操作で動くようになるわけです。

――ビデオを見ると、だいたい1回まわしただけでかなり改善されています
栗田■ 「まわひね」の「まわ」で腕が後方に行き、「ひね」で上方に行きます。「りき」で前方斜めまで降ろしていくと、もうその段階で動くようになっているのです。あとは、動くことを本人にも実感してもらうために数回まわしている。つまり、本質は1回なのです。1回で効果がある。後はそれを繰り返すことによって、もう少し細かい微調整を行っているわけです。「まわひねりき」はそのまま治療のネーミングでもあると同時に治療のステップも表している。そういう技術です。


4■「まわひねりき療法」で治療センスを

――そういった「まわひねりき療法」の可能性についてはいかがお考えですか
栗田■ 手技療法をきちんと行えば、何でもできるのじゃないかなという気がしています。手技療法でできない分野はない、私はそう考えています。

――そうすると、限界もないのですか
栗田■ 手技療法はとても奥の深い技術で、刺激の与え方1つ取ってみても、例えば触れることでグローバルな接触もできるし、指の骨の角度を使えば鋭い刺激も与えられる。指と手と腕の使い方を工夫するだけでさまざまな種類の刺激が与えられますよね。さらに私が手技療法の可能性が大きいと思う理由は、運動を併用するからです。患者さんをただ寝かせて、感覚センサーを刺激するだけではなく、運動を重ねる。患者さんの筋肉のセンサーだけでなく、関節のセンサーも使って、姿勢制御系から治していく。そこに「まわひねりき療法」の特徴と本質があります。だから、回す、ひねるのは単に刺激を与えているのではなくて、その人の姿勢制御システムを揺さぶっているわけです。ここが従来のマッサージや鍼灸と本質的に違うところです。
だから、人間がこの地球上でどういうふうに運動をしているのか。どういうふうに姿勢を取っているのか。そんな根本のあり方を変えることによって、驚くほどさまざまな効果が出てくるし、即効的な柔軟性も出てくるし、さらに自律神経にインパクトを与えることができるのです。
 そういうことに若干、気付いていた人もいると思うのですが、それを最もシンプルな形で活用するのが「まわひねりき療法」です。

――そうすると、疾患などもだいたいカバーできるわけですね
栗田■例えば五十肩は局所的な疾患ですね。一方、腰痛は局所が痛いのだけれど、本当は大局の不調です。特に腰痛症は、精神的なことからも生ずるものです。また肩こりも、精神的なインパクトも影響するし、内臓からの反射も関わっています。そのように一見、局所的であって、しかし実は大局の出来事が影響している不調にも「まわひねりき療法」は非常に効果を発します。だから、有効でない分野はないような気がします。

――禁忌はないということですね
栗田■ もちろん関節の逆を取って痛めたり、骨の弱い人にぐりぐりとやって骨折を起こしてはいけない、といった禁忌はあります。しかしそれはどんな治療法にも共通する禁忌ですから、治療する人にきちんとしたセンスがあれば、それ以外の禁忌はないと思います。
熱性疾患や癌などは、鍼灸治療やマッサージではあまり適応はないことになっていますが、「まわひねりき」に関しては例えば癌の転移の痛みなどにも有効ではないかと。普通にやるととても痛いときでも、きちんとセンスを働かせて行えば痛みを軽減することは可能だと思います。

――いろんな応用のされ方が考えられるわけですね
栗田■ ええ。何かを回し、何かをひねり、何かを力ませる、あるいは力む。この3つがちゃんとセンスとして分かれば、いろんな応用の可能性があるわけです。だから、すでにビデオとして出ている五十肩や腰痛、あるいは頚部疾患などをヒントにしてそこを学ぶことができれば、応用は無限だと思うのですが。
やはり治療しながら直観力を磨くことが大事だと思います。大局の中で、この患者さんにとって何が大事か、局所はどこが損なわれているか。実はその直観を磨く場が「まわひねりき」の実践でもあるわけです。まわひねりき操作をする中で、患者さんの大局の異常をとらえ、また局所の異常を察知する。そういう技にもなっているわけです。まわひねりきは治療のセンスを学ぶ技術でもあります。

――それではそのセンスを磨く上では何が大事なのでしょうか
栗田■ まず1つはイメージ能力。特に「空間的なイメージ能力」がとても大事です。例えば頚にしても、肩にしても、どういうふうに回るのかということがきちんとイメージできないと術者のセンスも働かないのです。どこが不調かすら理解できない。肩関節であれば、それをつかさどっているたくさんの筋肉があります。さらにそれと間接的につながっているさまざまな部分があるでしょう。それが一望の下に見えるような、ビジュアルなイメージ能力が必要です。言い換えると、治療を施す人の内面でどんなものが見えているかということによって、患者から得られる情報が違うわけです。内面で描いている範囲が狭いと、わずかなものしか見えないし、わずかなものしか得られないし、わずかな効果しかでないのです。ところが、こちらがよりグローバルなものが描けていればいるほど、広い範囲で情報が得られるし、広い範囲でモニターできるのです。だから自分自身の内面のキャパシティーを広げて、同時に思い浮かべられるものの数を増やすことが大事です。そのような内面操作を私は「並列処理」と呼んでいます。
 1回鍼を刺して終わりとか、1回指圧して終わりとか、そういうことではなくて、患者さんとの時々刻々のダイナミックなやり取りの中で活路が開け、新たな道が見えてくるわけです。そういう能力を磨きたいものです。
 そのためにはまずものをきちんと見ることが大事です。1点だけを見るのではなくて、広がりの中でものを見る。これを「分散入力」と私は呼びます。次に、広がりの中で見たものを、頭の中で広がりがあるものとしてきちんと動かしていく。これが「並列処理」。そういうことができるイメージ能力が大事です。それに加えて、過去に学んだ知識や体験と自分が今行っていることをどのように統合するかという能力も大事です。これを「統合出力」と私は呼びます。実はそれらを一言でまとめたものが「直観」なのです。直観力の中身は「分散入力、並列処理、統合出力」。広い範囲から患者さんの情報を一気に得て、それを並列的に処理をして、あるひとまとまりの有意義なものにする。治療で使う直観とはそういう内面の働きをいうのです。
直観が働くと、どこを押せばいいかが分かるし、どこをどちらの方に回せばいいかも分かります。操作は1回でも効果がありますが、2回、3回と重ねていくうちに、徐々に新たな道が見えてくるのです。
 例えば、古い五十肩の場合、長年の拘縮に関わっている筋肉は、結構広い範囲にあります。その全体は想像力がないととらえられないと思います。肩のある動きが制約されているのを見たときに、それを縛っている可能性をどれぐらい思い付けるかによって、その場の最短の治療技術が決まってきます。それを決めるのはその人の能力そのものだと私は思うのです。何かを「パターン」で覚えてやるのは簡単に見えてよさそうに見えますが、そうではなく、その場で臨機応変に対応できる情報処理能力が治療家の技を決めていくのです。そういう能力を高めるとよいと思います。
そのためには、「自然をきちんと見る」ことが基本だと思います。

――自然を見ることですか
栗田■ はい。自分が住んでいる環境をできるだけきちんと眺める力を磨くことです。特に四季折々の変化ですね。どんな樹木があって、どんな植物が生えていて、どんな生き物がいてどういうふうに動いているか。また、天体気象の動きも重要です。雲とか、太陽とか、そういう1日の時間変動を表すもの。時間変動を表すものと空間の変化とを、日々の生活の中でいかに敏感にとらえていくかという能力が、そのまま患者さんの状態をとらえる能力に比例すると思います。だから、よく周囲を見て散歩をしましょう、季節変化に気付きましょう、とお勧めしています。

――東洋医学はもともと望聞問切で、そういった五感を磨くことが大事とされていますがそれと同じことですね
栗田■ 中国の体系は大局から入るため、宇宙の見方から入るわけです。要するに自然界全体をまずグローバルにとらえて、徐々に局所に分割して精密に見ていく。そういう手順の体系がそのまま人体をとらえる手順の体系とアナロジーですよ、というのが東洋の古典の物語っているところです。それを理屈として知っているのではなく、つまり単に知識として陰陽五行や経絡を知っているのではなく、たとえそれを知らなくても、ダイレクトに自分の直観の中でその体系を躍動的に活用できることが大事なのです。そうすると、1つの身体の世界の中で全体と局所がどう動いていて、全体と局所の関わりの中でどのようなひずみが生じているのが見えるので、そこに手が行くし、そこを改善するために腕が動いて「まわひねりき」が生み出されていくわけです。


5■映像から本質をつかんでほしい

――読者の方に何かメッセージをお願いします
栗田■ ビデオを見ると、うまく映像編集していると思われるかもしれませんが、そうではないということを知っていてほしいですね。本当にその場で1回だけやると肩が動く。そういうところを見て欲しいと思います。それを不思議だと思わないでほしい。回るためにはきっと何かをやっているわけです。そこを知って欲しい。見かけの簡単な動きの中で何をやっているかを感じ取って欲しいのです。それを理屈で、あんな簡単なことをしただけで動くはずがないと考えると、私がやっていることが見えないと思います。まさにやっていることをそのまま映しているわけですから、それをよく観察して、一体、一見動いていないような指で何をしているのか。簡単に回しているような動きに一体何を込めているのか。何も秘密にしているわけではないのです。けれども直観で操作を選んでいる。そこに気付いて欲しいのです。

――「腰痛編」では見返り美人のポーズというのがでてきます
栗田■ あのビデオでも、やはりあの特殊なポーズを微調整しているところが大事です。肩の位置とか、背骨の角度とか、膝の位置を、相手とのやり取りの中でほんのちょっと動かしているのです。そのセンスが大事であることを、ぜひ見て取ってほしいものです。これは言葉では伝えられないものですから。見返り美人のポーズと呼ぶ腰痛解除の体操は、その言葉通りいかに美しい形にするかが重要です。

――姿勢の微妙な取らせ方が難しそうです
栗田■ そのときに、相手を見る目が要るのです。患者さんを美しいポーズにするためには、肩のどこをどうすればいいか。ひざをどうすればいいのかが分かれば、その場で腰痛は改善します。それを力でどこかをぐりぐりとやって腰痛を改善すると思いこんでいると、そこが見えない。力で治しているのではなくて、姿勢で治しています。姿勢が美しいポーズになったときに、システムは最適な状態になるのです。
 「五十肩編」も実はそういうことをやっていて、その人の不調な肩をとらえ、腕をとらえた上で、どのような軌跡を描くと、最も美しい動きになるかを考えて回しているのです。そこをビデオから見て取ってものにしてほしいと思います。言語的に理解できることではないのです。実際に見ることを通じて、こういう角度で回すのか。こういう早さで回すのか、ということを感じ取ってください。早く回しているわけではありません。非常にゆっくりと普通に回しているのだけれども、その動きのみちすじの中で病態と解決法の両方の本質をつかんでいるのです。ビデオをご覧になる方は繰り返し見てもらって、そこにすべての秘密が入っていることを是非知ってほしいと思います。(了)

  

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