「作家・鈴木光司氏との対談《第3回》」

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自分を活かす読書のススメ
雑誌「ダ・ヴィンチ」の記事として企画された対談の続きを紹介しましょう。
 冒頭の一部は、前回とダブっています。

ダイレクトに心に響かせる読み方とは(前回の続き)
 栗田 ■私もたくさんの方を教えてきたんですが、受動的で、自分の殻に引っ込んでしまうという方が鈴木さんのように開眼していらっしゃるんですよね。より良く読むには、そこをまず変えること。読めば読んだだけ世界は広がるんだと意識して本を読むことなんです。速読で教えたいのもそこ。速く読むからわからないんじゃないかと思うのはもったいないなと思いますね。わかるために速く読むわけですから。
 鈴木 ●体験する読書。
 栗田 ■そうですね。イメージしながら読むのとも違いますね。
 鈴木 ●ほう。
 栗田 ■ただ、読んだ言葉の群れをそのまままるごと頭のなかに投入する、それだけのことなんですけれども。そこで自分の枠を通して一語一語を確認しながら読んでいると(音読や黙読)、自己流で英語を日本語に訳しながら読むのと同じで、数行読むのに時間がかかるし、著者の意図からも離れがちなんですね。ですから目の力を最大限に利用して、なるべく情報を分断したりゆがめたりせずにそのまま入れたほうが、書いた人の心と読んだ人の心とがシンクロナイズする場面が増えるものなんです。
 鈴木 ●確かにそうだなあ。
 栗田 ■本のページに連なっているのはインクの染みであり、作家が伝えたいことを伝えるための道具としての言葉なのであって、1冊のメッセージをキャッチしたいなら一語一語にひっかかり過ぎてもいけないはずですよね。
 鈴木 ●そうだなあ、それには読み手も活性化していないとだめですね。どうせなら読むのも能動的に。
 栗田 ■読書の感動は作者の世界と自分の世界との接点から生まれるもの。作者のパワーに負けない読み手でありたいですね。
 鈴木 ●そうなるにはどうすればいいんですか。
 栗田 ■より良く読むには、まず、読めば読んだだけ世界は広がるんだとしっかり意識することではないでしょうか。私が提唱する速読で教えているのもそこです。わかるための速く読む。読んだ言葉の群れをそのまままるごと頭の中に投入する。それだけのことなんですけれども。
 鈴木 ●わかるために速く読むとは、矛盾しているようでいて、実に新鮮です。
 栗田 ■普段の読み方(視野も頭も一部しか使っていない音読や黙読)で一語一語を確認しながら読んでいると、自己流で英語を日本語に訳しながら読むのと同じで、数行読むのに時間がかかるし、著者の意図からも離れがちです。
 なるべく情報を分断したりゆがめたりせずにそのまま入れたほうが、書いた人の心と読んだ人の心とがシンクロナイズする場面が増えるはずなんですよね。
 鈴木 ●そう言われれば、そうですね。
 栗田 ■本のページに連なっているのは、作家がつたえたいことを伝える道具としての言葉。一冊に込められたメッセージをキャッチしたいなら一語一語にひっかかり過ぎないほうがよい。
 鈴木 ●うん、読み手も活性化していないとだめですね。
 栗田 ■本からキャッチしたことが、ダイレクトにしかもストレートに自分に響いたときに、ストンとわかる感覚。これが何度も訪れてくれるほどいい。そのうち自由に操作できるようになればもっといい。
 鈴木 ●気持ちが沈滞していたり、心のキャパシティが狭い状態の時などはどうなんでしょう?
 栗田 ■本の世界に共鳴するゆとりは生まれにくいかも。
 鈴木 ●頭だけでなく心身を自由に働かせてアンテナを広げてやることが大事なんだな。
 栗田 ●そう、本は頭だけで読むものではありませんから。

読書の質を変える人間の基礎能力を知ろう
 鈴木 ●読書するときに使われる機能とは、どんなものなんでしょう?
 栗田 ■筋肉や関節を動かす運動系、自律神経によって働く内臓などの自律系、感情や情緒を生む感情系、イマジネーションを湧かせる心象系、言葉を使いこなす言語系、すべての働きを支える潜在能力の領域である潜在系。大別するとこの6つの領域になります。心と身体はつながっていますが、ほとんどの人の頭の中はこれらのどこかに偏っていますから、6つの働きをバランスよく磨いて拡げて強力にしてから本を読めば、もっとハッピーに、元気になる読書ができるはずですよ。私のところに速読を受講しに来られた方の大半も、そんな感想を持ってくださっています。
 鈴木 ●読書とは一種の出会いのようなもの。強烈な出会いを自分から思い通りにセッティングできるなら、それは素晴らしいことです。新しい自分を知り、作者を知り、本に描かれた背景を知ってこれまで知らなかったハッピーをつかむというわけですね。
 栗田 ■速読の受講生の中に、「自分は本を読んでも全くイメージが浮かばない」とおっしゃる方がいました。興味深いことに、その人は身体も固くて、気持ちの抑揚が平坦、言葉も表現力もどこかしらずずれていたんです。こうした、潜在能力の働きが全体的に萎縮している状態の人は、自分が鈍感になっていることになかなか気づくことができません。残念なことに、読書の味わいや感動のダイナミズムをつかみ取るのも至難の技なんです。

心身のリアクションを研ぎ澄ませ
 鈴木 ●本の世界を深く味わうなら、心身のリアクションを鍛えることなんだ。
 栗田 ■そうですね。さきほどの6領域のリアクションを活性化してやれば、情報がより多く頭に入るようになるんですね。有用な情報を正確に理解して体内にとどめ、いつでも自由に使えるようになれば、潜在意識も活性化します。すると身体も元気になる。本を味わって成長する人、つまり情報を巧みにキャッチして自分の血肉にする人とはそんな人なんでしょう。   
 鈴木 ●ボクは無意識のうちにそれをやってきていましたね。「ループ」のあとがきにも書いたんですけど、「書くぞ」というモチベーションが高まっていたとき、シンクロニシティを次から次に体験しました。知りたい事柄、かなえたい事柄のヒントが向こうから次々とやって来てくれて。それは自分にとってとてつもないエネルギーとなりました。思えばそれはただの偶然ではなくて、自分のコンディションがキャッチした必然だった。
 栗田 ■うん、素晴らしいですね。内面から生まれるシンクロニシティを最も活用している作家が鈴木さんかも。   
 鈴木 ●(頭を掻いて)アハハ。
 栗田 ■私もこの対談のお話をいただいたとき、これまでに読んだ鈴木さんの作品をざっと思い返して、鈴木さんの小説の舞台であるアメリカの砂漠地帯を自分も愛していて、車で何度も走った経験があること、やはり小説に登場する滝行も経験があることなどから、読者としても鈴木さんの作品にとてもシンクロナイズしていました。
 鈴木 ●そうだったんですか。
 栗田 ■鈴木さんの作品を読むことを通して、私は鈴木さんとの大きなシンクロナイゼーションの輪の中にあるという満足感を深く味わうことができました。読者の皆さんも、読書を通してそれぞれのスケールでそんな体験をしているはずなんです。   
 鈴木 ●鈍感だったら決してキャッチできないんですね。読書の世界にシンクロナイズし、作家を知り、自分を知る体験を得た後に、そこからさらに自分も知らなかった自分の領域を引き出して、作家も提示していないようなビジョンを描き出せるのが読書の素晴らしいところなんだけど。
 栗田 ■うん、そうですね。その流れをできるだけ短時間で行うのが速読です。
 鈴木 ●ただ速く読むというのじゃないんですね。ハッピーな読書をするなら、うつむいて点を見つめるような読み方じゃなく、水平線を広く眺めるようなまなざしとそれに伴う精神を取り戻すことなんだ。小さく読んで入り口で情報を閉ざすような読み方はつまらない。感覚を拡げる速読、面白そうですね。大いに興味が湧いてきました。
 
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