速読対談「山本一力氏との対談」

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よく読みよく生きるあなたのSRS速読法

 雑誌「ダヴィンチ」の企画によって、直木賞作家の山本一力氏と対談する機会があった。 ダヴィンチ誌に掲載されたその内容を採録する。

山本一力と栗田昌裕の
「提案、アタマをもっと元気にする速読術」
ダ・ヴィンチ2003年1月号・2月号対談完全収録版
発行・発売/メディアファクトリー 毎月6日全国書店にて発売中
SRS速読法は、連載「速読に挑戦」に協力しています
取材・構成――今屋理香

目次
1 ◆◆◆ 山本流・情報収集術について
2 ◆◆◆ 子供の頃からの読み方を疑え
3 ◆◆◆ 速読が頭の仕事を洗練する
4 ◆◆◆ なぜ今読んだことを忘れるのか
5 ◆◆◆ 本は心の窓
6 ◆◆◆ 「スーパーリード」、速読って何だ
7 ◆◆◆ 読書は「共鳴する力」を磨き、「心」を磨いてくれる
8 ◆◆◆ その場にとって最高の情報処理をやってのける方法
9 ◆◆◆ 今意識していることは、すでに潜在意識が決めていること
10◆◆◆ 本を読めば、潜在意識が喜ぶ
11◆◆◆ 風景を見るように読む
12◆◆◆ 能力を活かしきるためにこれからの教育にとって大切なこと
13◆◆◆ 人生とは心の風景をかたちにしていく作業
14◆◆◆ めげない、いじけない、くじけないコツ、教えます
15◆◆◆ 速く読むだけではダメなんだ
16◆◆◆ 現代人にとって一番大事なものとは?
17◆◆◆ 5%の確率で、人はものを誤解する
18◆◆◆ 手に負えない間違いなんてない
19◆◇◆◇ 変われたこの人の速読体験談(4例)

山本一力…………Ichiriki Yamamoto
1948年、高知県出身。東京都立世田谷工業高等学校電子科卒。14歳のときに上京し、高校卒業後、会社員を経て平成9年に「蒼龍」で第77回オール讀物新人賞受賞。14年に「あかね空」で第126回直木賞を受賞。その他の著書に「損料屋喜八郎始末控え」「大川わたり」「はぐれ牡丹」、これまでの半生をありのままに書いたエッセイ「家族力」などがある。近著は、江戸を舞台に駕篭かきの走り比べで始まる物語「深川駕篭」(詳伝社)。

栗田昌裕……………Masahiro Kurita
1951年、愛知県出身。東京大学理学部数学科卒、同大学院修士課程修了、同医学部卒。米国カリフォルニア大学留学。医学博士、薬学博士。薬物動態学、肝臓病学、医学統計、システム理論などの研究を進める一方、講演や執筆活動も行う。日本で最初に速読1級の検定試験合格後、速読を入り口としたSRS(スーパー・リーディング・システム)能力開発法を提唱。世界伝統医学大会3回連続グランプリ受賞をはじめ、毎日21世紀賞、2001年提言賞等受賞も多数。

1◆◆◆ 山本流・情報収集術について

――最近、若者の国語能力の低下が顕著なのだそうです。本と情報のやり取りができないために、長文読解や論文書きが苦手になってきているのだとか。「読書」は知性を磨く身近で最高の手段とはよく言われることなのですが、ただ読むだけではだめなようで……。まずは読み方のコツからお二人のお話を伺いたいのですが。
山本 ■僕は読む対象によって読み方が違いますね。好きで読むのは海外のミステリーなんです。作家毎に代表的な翻訳家の方がいらっしゃるんですが、彼らの文体がリズムとしてなじんでいて、そのリズムを体に入れることを楽しんで読む感覚です。一方で、時代小説の先輩作家の作品は、襟を正して読んでいます。
 その1行にどんな気持ちが込められているか、どれだけの推敲が重ねられたのかといったことがわかるだけに、敬意を払いたいんですね。
栗田 ●時代劇を書くための知識などは、どのように情報収集されてこられたんですか。そこに誰もが知りたい読書のヒントがあるような気がするのですが。
山本 ■まず第一に正確な古地図を探します。小説の舞台となる町づくりの土台を据えるわけです。次に題材の背景を探る。私の場合は商いが主ですから、そのメインとなる商いの事実を読み込んでいくんです。
 一つの大きな目標のために、方法や対象の違う読書を何重にも重ねる感じでしょうか。
栗田 ●ある時は広い視野で大局をとらえたり、ある時は緻密にどこまでも深く掘り下げる。時にはその場の空気を感じ取るために自分の足を使って確かめに行くとか。
山本 ■そうですね。題材の原点がどこにあるか、五感をすべて使って絞り込んでいくんです。
栗田 ●図書館を使うにしても、資料を探し当てる推理力は大事ですよね。
山本 ■そうなんです。楽しいですよ。国会図書館にしかないと言われていた本を、町の図書館で手に入れたりとか。思いもかけないことが身近なところで待っていますから、情報を見る目を思い込みで濁らせないことで、見えてくるものはたくさんあると信じています。
栗田 ●私が時代小説を読むにつけ圧倒されるのは、ストーリーを作って動かしていくという作家さんの構想力なんですが、そこには秘密はあるんですか。
山本 ■僕の場合、知識はベースに取っておくものなんですね。物語を書くときに、そのベースの上に壮大なフィクションを広げるわけですが、土台が強固であれば表現は自由になる。構想力はそこから勝手に生まれてくるように思います。あの手この手で集めた情報を、物語という形で生まれ変わらせてやる時というのが、頭が最高に楽しんでいる瞬間じゃないでしょうか(笑)。

2◆◆◆ 子供の頃からの読み方を疑え

――ということは、自分の手足を使って集めた情報ほど、頭が喜んで働いてくれるということでしょうか?
山本 ■情報の入手経路はいろいろです。本、インターネット、実際に目で見たもの……それらをぼんやりと受け流さない。僕が日頃思うのは、似たような資料の山や、不親切な目次の中から、欲しい情報をもっと速く探り当て、もっと正しく確実に読み込めたらということなんですね。そうすればもっと表現に集中できるのに、と。いつもそんな状態を渇望しながら読んでいますよ。
栗田 ●欲しい情報を探すという行為は、速読の入り口なんですよ。その時の頭の使い方、目の使い方ですね。そもそも速読というのは、ページの中のたくさんの情報を、ひとまとまりの風景として見ていくような技術なんです。著書を読ませていただくと、山本さんも若いころに自転車を漕ぎながらたくさんの風景を頭にインプットして、表現の土台を作ってこられたということが伝わってくるんですけれども。
山本 ■はい。
栗田 ●今でもおそらく、本のページを見るときにその感覚を活かしていらっしゃるんじゃないかと思うんです。普通の人はそうではなくて、日常生活の風景は空間的な情報としてとらえられるのに、本を広げると、違う頭の使い方をし始めるんです。活字を見た途端に、ページ全体ではなく一字一字を順番に見てしまう。これでは読む量が多いと欲しい情報を見つけ出す効率は落ちるし、資料を読んで自分の考えをまとめようにも時間がかかるばかりです。私に言わせると、それは惜しいことで。
山本 ■我々はそれが習慣のようになっていますが……。
栗田 ●子供の頃に読み方を教わったときから、一字ずつ声に出して拾い読みしているのですから、仕方ない面もありますよね。ただし、それは刷り込みみたいなものですから、気づいた人から誰でも自然な頭の使い方に軌道修正できるんです。つまり、進歩したいと思えば、誰もが大量かつ速く正確に読む態勢にスイッチできる。本来、人は読書によって頭の中が活性化して元気になるものなんです。文字を見ると疲れるとか散漫になるという人は、ページの上を気持ち良く自転車で走り回るように情報を眺める読み方を、ぜひ知っていただきたいですね。

3◆◆◆ 速読が頭の仕事を洗練する

山本 ■本のページを「言葉の並んだ風景」と見なせば、自分の頭の力と目の力に本領発揮させる空間が、紙の上に広がるということですよね、なるほどなあ。欲しい情報を探し当てたり、新しい情報に関心が芽生えたり、情報の背景を感じたり……そういったことが、読むと同時に、普段の感性そのままに行えるような力が、もっと具体的に機能するわけだ。
栗田 ●それが速読力なんです。今まで一冊しか読めなかった時間で、速読なら目的に合わせて何冊でも読めて、感性を磨くことができる。
山本 ■インプットが足りなければアウトプットも乏しくなるのが人間ですからね。速読は、その意味で頭の仕事を格段に洗練するんだと思います。文字を読む作業にとらわれた読み方ではなく、すでに持っている関心や知識にリードされる読み方へと。
栗田 ●「潜在意識」という言葉を私は使うんですけどね。人の関心や知識や経験というのは、意識していなくても問題意識を備えています。読書するときは、そこに仕事をさせないと。例えば山本さんが資料を探っていらっしゃる時は、山本さんの問題意識が文献を探させているわけで。
山本 ■その通りです。

4◆◆◆ なぜ今読んだことを忘れるのか

栗田 ●だから、その読書には具体的な進歩がある。そこが大事だと思うんですよ。本の言葉を1個1個頭に入れるだけで読書したぞと思ってしまうと、それだけでは不十分で、頭に入った情報の使い道が用意されていない。それですぐに気が散ったり、今読んだことが思い出せなかったりするんです。
山本 ■目から鱗が落ちますね。今まで考えてみたこともありませんでした。
栗田 ●「問題意識」と「知識」と「見る目」があれば、読書は何重にも楽しめる世界です。例えば富士山について知りたいとき、歩いて確かめる方法もあれば、新幹線から全景を眺めるという方法もあるというように。行っただけでぼんやりしていると何も頭に残らない。読書も旅と同じです。
山本 ■もっといろいろなやり方があっていいんですね。のんびり歩いても、飛行機で飛んでも、そこに発見があればいずれも楽しい旅ですしね。
栗田 ●子供の頃からの音読や黙読も、型としてそういう読み方があるのはいいんです。でも、読む作業はできるだけ効率化して、味わって役立てることにもっと頭を使う読み方だって、やろうと思えばできるんですよ。
山本 ■読書で一番エキサイトするのは、やっぱり欲しいメッセージや知識に出会った時ですからね。
栗田 ●読書の情報処理は、入力して、処理して、出力するという流れで成り立つものなんです。しかし一般的には、入力、つまり速く頭に入れることが速読だと思われていて。事実はそうではありません。速読の良さは、入った情報を自分のものにして、しかも、いいところで役立てていくという流れを作る点にあるんですから。
山本 ■そうですね。情報を自分のものにしていく時に、人はあらゆる能力を培うのだから。やはり速読は頭を活性化する読み方なんですね。

5◆◆◆ 本は心の窓

栗田 ●ええ。本はあくまでも窓。読書は、その窓の向こうに何が見えているのか探る能力を磨いてくれるんだと思うんですよ。だから、読書を通じて成長したいなら、1冊の本にとどまらないで、なるべくたくさんの本に触れる機会を作るほうがいい。そして、異なるたくさんの窓の向こうに、どんな世界が見えるか意識を働かせてみてほしいんです。私が提唱している速読も、ページの向こうにある世界を、いかに速く、大きく捉えるか、その技術を教えているんですよ。
山本 ■1字1字が問題なんじゃない、1行1行が問題なんじゃない。
栗田 ●速読なら、山本さんの本を1冊読んで「あの一節が良かった」で終わらないんですよ。一気に何冊でも読めますから、それぞれを窓口として山本さんも見えてくるし、江戸時代も見えてくる。そのうち読んでいる本人と山本さんと江戸時代と、異なる3つの領域が共鳴してくる。
山本 ■頭のなかに新しい知性の場ができてきますね。
栗田 ●そうです。その場の中で新しい自分の一面を生み出すことができるんだと思います。新たな理解を得るかもしれないし、何か表現力を身に付けているかもしれません。それも読書の大きな喜びだと思うんです。
山本 ■1冊しか読めないと、1つしか窓は開いてないわけですよね。でも、同じ時間で5冊読めれば、5つ窓が開く。速読でなら、普通の読書の何倍ものアプローチを、手早く深く可能にするんでしょう。読書で自分を磨くという方法は、そういうところにもあるんですね。

6◆◆◆ 「スーパーリード」、速読って何だ

栗田 ●僕はそう思うんです。例えば、山本さんが書かれた『あかね空』を1年かかって読むとしますよね。
 それでは、必ずしも深層に到達できないのではないか、と。1ページ理解して、また1ページ理解して、それで300ページ読んでも、本当に『あかね空』が分かるのかどうか…やっぱり、全ては分からないと思うんです。ストーリーの背後にある時代性を考え、さらに山本さんの意図やキャラクターを考え、今度は読み手の人生や、今の時代に照らしてみる。そんな作業に正確さと深みがあればあるほどいいはずだけれども、それには、できるだけ舞台を広げて、なおかつスピーディに頭を使わなくちゃならないんですよ。
山本 ■ほう。
栗田 ●私の場合、そうすることで、とても沢山のことがわかってくるんです。例えば、山本さんのエッセイに、ビデオで『名作の風景』シリーズを作られたとありましたよね。そこで僕ははっと気づくんです。
 『名作の風景』って、どこかで見たことあるぞ、そういえば家のリビングにあったぞ、って。そんな風に『あかね空』を読みながらも、私の人生と、山本さんの人生とがクロスして、共鳴していくんですよね。
山本 ■なるほど。本をきっかけに自分の経験や知識の領域も読みなおすわけですか。
栗田 ●私が提唱している「スーパーリードする」というのはそういうことです。本を読むだけじゃなくて、自分自身の知識や経験や記憶も含めて、本の向こうにある世界も併せて読むんですよね。そうすると、空想の世界である時代小説を読みながらも、話の背後にある作者の「今」に共鳴し、さらに、読もうとする自分自身の「今」にも共鳴してくる。そうすることで、いろんなことがわかってくるんですよね。『あかね空』という小説の中に、ストーリーの良さだけではなく、山本さん自身が投影されていることも併せて感じられてこそ、読書がもっと深く味わえるというか。
山本 ■……驚いたな。
栗田 ●本を読み、作家を読み、自分を読み、というように。
山本 ■そうなんですね。
栗田 ●山本さん自身の人生が、時代小説にリピートされ、そのメッセージが、今度は読者に広くリピートされていく。人間って、わかっていても同じことを繰り返しますでしょう。だから、無意識のなかで何かヒントを求めているときなど、同じ本を何度も味わって読むことには意味があるんですよ。
山本 ■読み手が、自分にとって身近なところにある小説の中に、必要なモデルを見るわけですか。
栗田 ●本の中の世界を受け取るだけではなく、自分に照らして感動したり共鳴したりして、その時に必要な自分の内面や在り方を作り替えているんだと思うんです。速読力というのは、そんな共鳴する力を最大限に短い時間で発揮するための技術なんですよね。
山本 ■そうか、なるほど。心の面でも、知識の面でも、役に立つわけだ。
栗田 ●そうすると、ページの上の文字にこだわらないで、速いスピードで、深くおもしろく読めるようになっていくんですよ。
山本 ■ゆえに、「風景」だというわけですね。
栗田 ●そうです。新宿でも渋谷でも、1回歩けばある程度わかりますよね。でも、問題意識を持って走り回れば、もう少しわかる。それよりも、知識があれば、なおわかる。読書という紙の上での体験も、実際の空間での体験と同じと思えばいいんじゃないでしょうか。例えば、渋谷以外の街を沢山走っていれば、渋谷がおもしろい不思議なところなんだなということが、逆によくわかってくるといった具合に。
山本 ■ほんの身近な風景でも……自分にとって見慣れた風景の中、例えば深川の町を歩いていても同じですね。なんでもない景色に大きなひらめきを得ることがあるからなあ。

7◆◆◆ 読書は「共鳴する力」を磨き、「心」を磨いてくれる

栗田 ●私は、深川へは行ったことないんですが、過去の水の政策に関して、あの下町の辺りをどうするかというのは大きな問題だっただろうなって、前から思っていたんですよ。ですから、そういうところに住んでおられる山本さんが、そこを題材にして本を書かれたことに、まず一番に共鳴しました。『あかね空』を読んだときに、私はまず、水の話に関心を持ったんですよ。
山本 ■豆腐屋の水は一体どこから手に入れたのか、とか?
栗田 ●考えましたよ。それで、僕が知ってるのは、御茶ノ水の上水道の遺跡ですから、きっとああいうところじゃないかなどと、想像力があちこちに出かけて行く。
山本 ■うれしいなあ。
栗田 ●楽しい時間ですよね。全部、スーパーリーディングっていう概念の中に収まっていることなんです。
 風景はどこまでも広がっていくし、人はどこまでも共鳴するんですよね。何重にも。
山本 ■共鳴とは考えてもみなかったけれど、どうやら読書には欠かせないセンスであるようですね。
栗田 ●そうだと思いますね。
山本 ■つまり、読者の人生経験なり、その読者の持ってる背景って言えばいいんでしょうかね、そういうものによって、同じ本を読んでも、人によって読書の厚みも捉え方も違ってくるわけで。
栗田 ●そうなんですよ。
山本 ■共鳴する力、それはその人の器だとも言えるかな。
栗田 ●そういうことなんでしょう。だから読書は心を磨くのにいい方法なんです。

8◆◆◆ その場にとって最高の情報処理をやってのける方法

栗田 ●僕が驚嘆するのは、約束事がいっぱいある時代劇を書くという作業に、作家さんはどこからどういうふうに手をつけていかれるんだろうということなんですけれども。
山本 ■そうですね。大変な作業です。
栗田 ●まず、用語。私達がどうひっくり返っても、時代劇用語を全部覚えるなんてことは、とてもできないと思いますし。
山本 ■それは作家も同じですよ。毎度勉強です。やはり、思いやメッセージを、正直な言葉にまじめに置き換えていく作業が我々の大事な仕事でもあるかな、と思います。
栗田 ●なるほど。
山本 ■現代用語をそのまま使われる作家さんもいらっしゃるけれども。僕はそれだと行き詰まってしまいますね。
栗田 ●そうですか。
山本 ■現代の言葉が出てきて、それをそのまま使っちゃうと、いいのかそれで、ということで止まっちゃって、先へ進めなくなってしまう。常に身近なところに辞書を置いて、迷ったら言葉を置き換えてみます。
 文献としては、大きな分厚い江戸の辞典から現代の百科事典まで全部材料にして。
栗田 ●探していくんですね。ああ、それはすごいですね。
山本 ■そうやって一番自分の小説に似つかわしい言葉を決めるんです。見つけられなかったら、自分で作る。
栗田 ●直感ですね、それは。
山本 ■つい先日も「煙突」っていう言葉を、煙突じゃちょっと時代小説には合わないなと思って、百科事典を見ていたら、「煙だし」っていう言葉が引っ掛かってきて。煙だしならいけるな、とかね。我が意を得たりという置換作業、これはもう、やっててとても楽しいんですよ。。
栗田 ●言葉を選ぶセンスこそは作家の大事な個性ですからね。山本さんは、言葉選びには時間をかけられますか? それともひらめきで、これでいい、というふうに、ぱっと決められますか?
山本 ■タイトルを決めるときに相当時間をかけるかと思えば、自転車で走っているときに今書いている原稿の、決めの言葉がふっと閃くこともあるんです。これはリズムみたいなものですね。
栗田 ●あ、なるほど。
山本 ■ぐずぐず立ち止まったままにせずに、なんとか、いつも通りに乗り越えようとするんです。書きながら、言葉に詰まったら迷わず文献を引っ張りにいくというリズムをなるべく崩さないように心がけて。
 これはもう、僕の流儀みたいになっていますね。
栗田 ●そこでつまづいてしまうと、書くペースもやっぱり変わってきてしまいますか。
山本 ■それはあります。行き詰まってしまうと勢いがなくなって僕はだめですね。小説っていうのは、物語の総合力だと思うから。
栗田 ●そうですね。人間がたえず行っている、情報の入力、処理、出力の流れの総合力というものでしょう。
山本 ■作家の方々が、物語の人物が勝手に動き出して止められなくなるっていう話をされていたのを僕もよく見聞きしていたんですけども、実際、そうなんですよ。
栗田 ●作家さんの情報処理の流れが最高に乗っている時、そうなるんでしょう。
山本 ■その勢いを、無理やり捻じ曲げちゃったりすると、話がもうそこでぷつんと切れちゃいますね。あれは不思議だなあ。
栗田 ●作家さんに限らず、読書でも、勉強でも、仕事でも、乗りに乗っている時には疲れも感じないし、短時間で思った以上にはかどるでしょう。それは心身がひとつになって情報処理の効率を最高に上げているときですから、思い込みや決めつけでじゃましちゃだめなんですよ。逆に言うと、そんなテンションに自分を持っていく方法を身に付けていれば、いつでもどこでも、人は迷わずその場にとって最高の情報処理をやってのけることができるということなんです。試験とか、ビジネスとか、いろんな場面がありますよね。大事な場面で失敗しないために、速読がいい訓練になるんですよね。
山本 ■ええ、わかります。私、栗田さんのお話を伺ってて思ったんだけれども、僕のパソコンの場合、1ページ打ち出すと、画面上に800字出るんです。結局、それが本当に僕にとって1つの風景なんですね。
 今、自分で納得できたのは、そこに違和感のある、あり得ないところへいくらきれいな花を置こうとしても、結果は良くはならない。
栗田 ●そうですね。潜在意識にあるべき風景ができあがっていれば、脈略のないことはやらないようになってくるんですけれども。
山本 ■究極の情報処理の流れを自分の中に身に付けていれば、間違っていることをやろうとしても、潜在意識の方でそれをさせてくれないんでしょうね。そこを頼っていけば、もっといい仕事ができそうですよね。いやあ、今、謎が1つ解けましたよ。
栗田 ●それには、ちゃんとした情報処理の流れを自分の中に作っておくことですね。
山本 ■なるほど。
栗田 ●ないところから言葉や知識を搾り出す苦しい作業がなくなって、自然に頭の中のファイルの必要な箇所が開いて、あとは自由に思い通りに並べるだけという感じになってきますからね。
山本 ■そうですね。作中の人物に台詞を教えてもらってるっていう時、僕もあるもんなあ。それが安定しないのが残念なんだけど。
栗田 ●それは、誰もが共有して応用できるすばらしい感覚なんですよ。潜在意識のほうではあらゆる準備作業ができているから、頭が思いつく前や、手が動きだす前に、先まである程度ディテールができていて、それがいいところでちゃんと出てきてくれるような面があるんだと思うんですよね。

9◆◆◆ 今意識していることは、すでに潜在意識が決めていること

山本 ■自分で意識していることは、その前にほとんど潜在意識が決めてしまっている?
栗田 ●言ってみれば、これからやるべきことは実はわかっているという感覚はあると思うんですよね。そういう経験は、実は誰もが持っていらっしゃると思うんですけど。わかりやすいように、私、心は会社のようなものだって、そういう風にたとえてるんです。
山本 ■ほう。
栗田 ●心の中に社長がいて、社長とは表面意識の中でものを考えてる自分なんですよね。でも、実は、それ以外の心全体を満たしている潜在意識、これを従業員と呼んでるんですけれども、潜在意識がすでにいろんな部門で普段から仕事をしてるわけです。だから、社長である自分が「こうしたい」となったときに、従業員たちの存在と働きを使えているのとそうでないのとでは、大きな差が出てくるわけですよ。
山本 ■いやあ、そうだなあ。
栗田 ●自意識にはまだ浮かんでこなくても、潜在意識ではもう、30年先の作業が始まっていると思えばいいですよ。その場限りでものごとは始まったり終わったりしない、と。
山本 ■うん、うん。
栗田 ●ですから社長が突然、「これやめた」と言っても、しばらく従業員たちは抵抗する。
山本 ■もうすでに事は動いてるから。
栗田 ●考えがころころと変わっても、あまりいい結果にならないというのはそういうことでしょうか。自意識に潜在意識がかみ合っていないから。実は、人生も自分自身である社長さんより、目に見えない従業員たちによって動いてると思っていいんですよ。
山本 ■自意識でちゃんとやってるつもりのことは、実は、潜在意識にリードされてるということ?
栗田 ●ええ。ほとんどは潜在意識の衝動で動いてる。自意識は後から理屈付けしてるようなものかな。だから、潜在意識も巻き込んだ情報処理能力を変えていかないと人生は変わらない。人間も賢くならないし、失敗もなくならない。多くの人は、それを占いとか勉強とか、そういう概念で克服しようとしているけれど、僕は違うぞと思うんですよね。キーワードは情報処理ですよ。
山本 ■現代的だな。
栗田 ●的確な情報処理をスピーディにいかに全身全霊でやるか、そういう概念が人間にとってとてもニュートラルだし、現代的だと僕も思います。その具体的な方策をみつけるということは、私の幼いころからのライフテーマでしたし。
山本 ■小説を書く、勉強をする、仕事をする、誰にとっても、自分の考えや行動が、一体どういう大きな流れの中から出てきてるのか、どんな潜在意識がそういうものを作り出してきたのかと感じとることは、大事ですもんね。

10◆◆◆ 本を読めば、潜在意識が喜ぶ

栗田 ●ええ。それがわかっている人とそうでない人には差が出ますよね。でも簡単です、読書で練習できるんですよ。読書には、表面意識と潜在意識が巧妙にかかわっていて、なおかつ作者の潜在意識と、読む方の潜在意識の交流もあるんですから。
山本 ■へえ、読書って深いものだなあ。
栗田 ●私たちが学校教育で習った読み方は、表面意識で日本語を捉えていくような方法だったところがありました。でも、読書が本当に好きな人は、おそらくそれだけじゃなくて、読み方という作業を身に付ける時期を過ぎると、次の段階として、作者の無意識と共鳴するというおもしろさを味わってるはずですよ。
山本 ■無意識のうちにそれをやってるんですか。
栗田 ●そうです。読書が好きな人は、どうして自分が読書が好きなのかわからないし、読書が嫌いな人はどうして嫌いなのかわからない。だから無意識なんです。でも一つ言えることは、読書が嫌いな人は、自分の潜在意識で他者の潜在意識に共鳴するという世界を知らないんじゃないかということですね。
山本 ■潜在意識がどこに向かってアンテナを張っているか、そこも読書をうんとおもしろくするわけだ。
栗田 ●本を読む作業は、潜在意識に情報を与えるということですよね。それで、いろいろな従業員たちに素材を与えてね、ちゃんと仕事ができるようにしてやるわけです。すると社長さんが図書館に行って、探しものを始めると、おい、そこだよ、と従業員が教えてくれるようになる。結果、本を読んでためになったということになる。しかし、従業員に元気がないと、社長一人が空回りして、何も残りません。満員電車で疲れて本を読んでも話に入っていけないとか、時間つぶしで本を読んでも何も中身を覚えていないとか。
山本 ■ああ、そうですね。
栗田 ●逆に、社長は飛ばし読みをしてると信じてるんだけど、実はそうじゃなくて、従業員のほうは全部見てる可能性もあるんですよ。だから、飛ばし読みをしてるという人の中には、実は速読の入り口のようなちゃんとした作業をやってる人も結構いるだろうと思ってます。でもね、本当に飛ばし読みをすると、人間は読んだこと、全然わかりませんよ。
山本 ■理解しないんですね。
栗田 ●言葉の断片だけ拾って、ものが理解できる理由は全然ありませんからね。
山本 ■はしょって読むのは、どうなんでしょうかね。
栗田 ●ちょうど私たちが、高層ビルから新宿の街を見降ろして、あそこのビルを見て、こちらの商店を見る、まあ、3ヶ所くらい見たとします。3ヶ所理解したから、新宿ってこんな感じかってわかったつもりになるとしますよね。でも、違うんです。実は3ヶ所見ながら、同時にあらゆるビルを見てますよ。
山本 ■潜在意識が?

11◆◆◆ 風景を見るように読む

栗田 ●そう。潜在意識の力は、見ようとしているものの周り、つまり中心視野の周りの周辺視野で働くんです。ここが「風景を見るように読む」という感覚を知っていただく上で、また、今日のテーマである「頭を改善する」っていう点でね、とても大事だと思うんです。ある目的地を探しながら自転車に乗っていて、町中を走リ抜ける間にも、周辺視野はいろいろなものを見ているという、その感覚。
山本 ■栗田先生の教えていらっしゃる速読の感覚ですね。
栗田 ●はい。ぶつからないし、穴にも落ちない。落ちないために見ている情報も、従業員たちがそれぞれにいつか必要になるときのためにキープしておいてくれるという読み方。
山本 ■理想とする読書そのものだな。
栗田 ●意識して見ていないはずの景色も、実は知性を維持する潜在意識のえさみたいなものです。風景を毎日たくさん見続けるということは、潜在意識を養うことだと思うんですよ。本を読むときも、同じようにすればいいんです。同じ目を使っているんですから。
山本 うん。今の子供達は、実はそういうことをあんまりしてないんじゃないかな。地下鉄にのって、びゅっと学校へ行ったり来たりしてますよね。乗り物は便利になり、速くなって、だから街のどこに1軒1軒何があるかってことはわからないで、大人になっちゃったかもしれない。

12◆◆◆ 能力を活かしきるためにこれからの教育にとって大切なこと

栗田 ●心のなかの空間がせまいかもしれないというのは、私も感じますね。
山本 ■非常に残念ですね、それは。
栗田 ●ええ、空間がないっていうことは、潜在意識が働く場所がないってことですから。
山本 ■僕は、若いころ新聞配達をやって町を走り回っていたけれど、その経験は役に立っているのかな。
栗田 ●風景にインパクトを与えられてこられたはずですよ。私も田舎育ちでね、自由に野山を走り回っていたから、その点でとても恵まれていたと思うんです。ところが子供たちの世代を見てるとね、昔に比べてとても限られた空間に生きてるでしょ。持って生まれた能力を活かしきれてない人もいると思うんですよ。
山本 ■五感を全部使って動き回って、情報を広く見て、心に広い空間を作るっていうことが、いかに大切なことか。
栗田 ●そこにその人の人生に欠かせない要素が組み込まれていって、未来が作られていくんだと思いますからね。未来を発想する力というものは、空間がなければ発揮できないんですよ。
山本 ■その通り。今の親っていうのは、ある意味、子供のそういう大事な本能のようなものを、一生懸命になって潰そうとしてる面もあるかもしれないな。
栗田 ●それは私も感じます。机に向かわせて、本を読ませておけばいいっていうのは、僕も間違いだと思う。そうじゃなくて、本は野山で読めばいいんです。速読っていうのは、公園のベンチで5分もあればできることです。で、その本といっしょに公園の空間を頭に入れれば、そこで読んだ内容は、公園の空間を感じる力とセットになって入るでしょう。これはすごい強力な潜在意識の教育になると思うんですよ。
山本 ■うーん、その通りだな。
栗田 ●だから、どこにも行かないで家にこもって勉強しなさいってことには、とても大事なことが抜け落ちてる。人間にとって、目も使い、耳も使い、皮膚も使い、体も使い、備えてるものを全部使って、空間をがっちり作った若い時を持ってるということ、僕は、これほど恵まれてる資質はないと思うんですね。
山本 ■ああ、俺のやってることはあながち間違ってないのかなあって思うのは、うちの小僧2人とも、学校から帰ってきたら、ランドセルをその辺にほっぽらかして、家にいないんですよ。それから夕方の鐘が鳴るまで、帰って来ませんからね。
栗田 ●昔の子供はみんなそうだったんですよ。
山本 ■そうですよ。僕ら、そうだったんです。
栗田 ●本を読むことは、やらなければいけないたしなみでも義務でもなくて、心を大いに遊ばせるためのものであってほしいんです。大人になったら、特にそうであってほしい。

13◆◆◆ 人生とは心の風景をかたちにしていく作業

山本 ■僕も、あの子供時代に走りまくった情景というのは、古ぼけた記憶なんてものじゃなく、今もリアルに感じられる空間としてあるな。それを思いながら、江戸の町を書いてますからね。
栗田 ●そうだと思います。自分が生まれ育って、見て、感じてきた風景、そういうのは全部今に生きている。私も自分でびっくりするのは、自分の家の周り、本当に半径200メートル前後の空間なんですが、そこに、以後の人生のかたちが全部詰まってるようで。何かのことで自分を振り返ったとき、自分をつくりあげたあらゆる要素がその風景の中にあるんですよ、見事にね。
山本 ■いいなあ、それ。その通りだな。
栗田 ●うん。それはもう、ほんとに。10代、20代、30代、今50ちょっとまで来ましたけどね、大事なことのすべてが、その風景にパックされているなと、はっきり感じられるんですよね。
山本 ■今、自分に強力に影響を与えている原風景とは何か、そのことを思い起こしてみるのはいいこと。
自分が何でこんなことをやるんだろうと振り返るときに、理由がはっきりわかっているという人の信念は、簡単にはぶれませんし。人間とは、心の中の原風景を小出しにしながら、人生を決めていくようなところがあるのかな。
栗田 ●人生の最後の方に近づくほど、幼い時の心象風景がダイレクトに効いてきますよ。それが、僕の意見です。これから50から60、70へと年を重ねるうちに、発想の原点が徐々に若返りしていくと思いますから。そういう感覚をちゃんと使うことによって、いつまでも満足感を得ながら人生を楽しめるはずです。
山本 ■うん。僕も、その風景から得たものを再現するために、仕事をしてるようなところがある。
栗田 ●人によって形は違いますよ。山本さんの場合は江戸時代を書きだすことに投影してるんでしょうね。
 大人になって、あらゆる手段を使い分けて、原風景に形を与え続けているんじゃないかな。形を与えることは嬉しいことなので、ライフワークになる。途絶える必要もないし、続ける限りハッピーですし。
山本 ■そうそう、それで読者の共感を得られるのは、つまり、読者も同じ体験を本を通じてやってくれているからなんだな。
栗田 ●そういうことです。みんな同じです、基本は。
山本 ■本を理解するのは、おもしろいと思うからなんだろうし。
栗田 ●僕は、おもしろさの根底は、共鳴にあるんだと思うんですよ。
山本 ■共鳴、ですか。
栗田 ●共鳴することによって、自分の萎縮していたところが回復するんですよ。人は、幼い頃など、持ち合わせている感覚全てをフルに使っていた時代、経験がありますよね。感受性が生き生きしていて、知性も成長しつつあって。ところが、大人になるにつれそれがだんだん萎縮していく。制約されて、あちこちこぶだらけ、へこみだらけになっていってしまう。それを復元するのは、共鳴力だと思うんです。自分に響く空間を感じて、自分を修復できる。それがまあ、今風の言葉で言えば“癒し”なんですけどね。
山本 ■もっと俗に言えば、読んでおもしろい、そういうことでもいいんですよね。
栗田 ●強力な作家さんはその要素を作品中に多重に詰め込んでいらっしゃるんだと思います。『あかね空』も、いろいろな人物の見地から読める多重性みたいなものが、強く読み手を引っ張っていると思う。
山本 ■ありがとうございます。本が読み手の感性を取り戻す力になるんだったら、書き手冥利に尽きます。
栗田 ●読書には、人間にとって大切な、あらゆる要素が詰まっていますからね。感性を磨くのにいいのは当たり前。
山本 ■そうですよね。あらゆるものを読むことの有意義さを、幾つになってもいつまでも、感じていたいですしね。
栗田 ●だから、僕はいつも言ってるんだけど、読書はまず、人間の情報処理の総合力を養うものなんだ、と。我々は、日本語10数万単語を使って、あらゆることを表現しますよね。サイエンスも歴史も、政治も経済も、文学も。だから、最高の知的行為なんです。地球上で、10数万単語を操って読書ができる存在は人間しかありません。読書のすごさをもっと感じて欲しいですね。
山本 ■自分の空間をトータルに広げる作業みたいなものとして。
栗田 ●ええ。読書を通じて、いつでも自分自身の内面空間を調整しなおすチャンスが開けるんですから。
 文字を頭に入れることだけにこだわらないで、もっと感じて共鳴する読み方を意識してみてほしいですね。
山本 ■そうなると、読書と、映画を観るという行為、これは似て非なるものですね。栗田さんのお話でよくわかったのは、読書というのは読む行為を通じて、自分で世界を構築していけるということ。その人が今までインプットしてきたことや、自分の思いや何かをすべて託して、自分の絵が描けるんだ、と。そこにつまり、自分の納得のいく風景が描ける。ところが、視覚から入ってくる映像には、それ以上に描けないんですよね、もうできあがっちゃってるものを受け入れるだけだから。
栗田 ●そうですね。
山本 ■読書とは、自由であると同時に、読み手の能力もものすごく問われる。作家のメッセージ通りに受けとれているのか、とか。読んだつもり、わかったつもりの読書というのも、多いんだろうな、実際は。
栗田 ●SRSの情報のとらえ方には7つの柱がありましてね。空間の柱、時間の柱、ものの柱、価値の柱、人間の柱、情報の柱。そしてど真ん中に生命の柱。僕は、受講生たちに、ものを記憶したり見たりする時には、これらの7つの柱に即してみなさいって言うんです。時代劇を読むと、その効果が明確にわかりますね。
山本 ■空間という柱で言えば、まず、書いた作者の現代と、書かれてる時代の江戸時代とが、二重に楽しめる。
栗田 ●で、さらに、作者が持っている現実の空間、これも楽しめる。で、価値、これが一番大きいと思うんですけど、江戸時代には江戸時代の価値がありますよね。さっきの水の話もそうですけれども、現代だったら、水なんて当たり前にあるんだけど、江戸時代だったら、価値が全然違うわけですよね。価値の二重性も、時代が変わってるが故によくわかる。そうして、鮮明に炙りだされてくるのが生命の柱だと思うんです。
山本 ■江戸時代の人が生きていたころの命、背景にある作者の現代の命、一方、読み手自身の現代の命。
栗田 ●そう。そんな風に時代小説を読むことを通じて、情報を空間的に頭に入れるときに大切な7つの柱を、とても明快に捉え直すことができるなと、あらためて思いました。これまで説明に困ることも多かったんですけど、時代をずらして、違う空間を書かれたものを読める時代劇は格好のテキストですね。
山本 ■江戸時代のモデルをよく見ると、現代の時間空間がわかってくる。で、ふと気づくと、実は2つの時間、空間、場所が接点を持ってることに気がつく。
栗田 ●山本さんの書かれた本の中に、狛犬の話がありましたね。
山本 ■275年も昔に奉納された狛犬に触れることで、何百年という時の長さと、当時確かにこの狛犬を奉納した人々の存在が身震いするほどに身近に感じられましてね。
栗田 ●私達の持ってる時間空間、つまり時間の柱が、どーんと過去と現在をつなげる。すると、私達は、一気に1600年代から2000年代へと続くひとつながりの空間を持つことになるんです。その数百年間に起きたことは、みんな本当なんだという実感、命がこもってくる。本を読むことによって、人々が歩んできた時代そのものを自分自身のこととして感じることができるんですよ。悠久の時間がとてもリアルに感じられてきますでしょ。その時、間違いなくその人は記憶力も使ってるし、想像力も使ってるし、理解力も使ってるし、推理力も使ってる。読書という簡単な行為ひとつで、空間をうんと広げて、しかも共鳴力を高め、自分の頭の働きのあらゆる側面を試すことができる。そしてもちろん、気づかないうちに活性化されてる。時代劇というのは時代を遡らせるという、作業が新たに加わる分だけ、現代小説とは違う深みを持たせることができるのかなとも思いましたね。
山本 ■僕もよく分かりましたね。よく、現代のものを現代で書いたんではあまりに生々しすぎるから時代劇でっていう評論もあるんですよ。
栗田 ●はい。
山本 ●話を200年タイムシフトしてやることで、今の人達は自分達を見なおす、そのきっかけになるんだ、と。時代小説を読むことで、自分を客観視して、今いる自分のありさまっていうものを思い返すことができるということを、評論としてはよく言ってこられたんだけれども、まさに今、その謎解きを栗田さんがなさったんだな。

14◆◆◆ めげない、いじけない、くじけないコツ、教えます

栗田 ■人間って、ものごとを客観視できたときに、救われるところがあるんですよ。
山本 ●ああ、なるほど。それはそうだな。
栗田 ■速読を教わっていても、やはりとてもめげたり、いじけたり、くじけたりする人はいるんです。なぜかというと、例えば、70人が講習を受けると、平均の人がいて、ほかの半数は、平均以下ですよね、当たり前だけど。だから、いろいろなテストをして、いろいろなデータを取るんですけど、何をやっても平均以下という人が、自分は何をやっても平均以下だと思うと、やっぱりいじけるわけでしょ。ところが、そういう人たちがどこでめげなくなるか、いじけなくなるかというと、自分を客観視できた時なんです。
山本 ■はあ、そうだなあ。
栗田 ●自分は今悲惨だなって客観視できると、めげなくなるんです。
山本 ■ふむ。
栗田 ●じゃあどういう時にめげるかっていうと、それは、悲惨であることを知られたくない時なんですよ。
山本 ■思い当たるなあ(笑)
栗田 ●外側に立つと、元気になる。あ、なんだ、自分ってこんなにひどかったんだって、思える。外に出たってことは、もう壁を越えたってことだから。
山本 ■よくわかりますよ、それ。
栗田 ●トレーニングの中で「指回し体操」というのを教えてるんですけどね、手の指を順番に回させてみると、薬指がなかなか回らないんです。その時、みんなただ回らないって思ってるだけなんです。そうじゃなくて、こんなに回らないぞ、そのことに感動しなさい、と私は言うんですよ。外側から自分を見ることができたら、もう、そこに脱出するパワーが湧いてきてるということですから。
山本 ■やっぱり、自分を慰めるためにどつぼに入っていく限りは、何も見えてきませんよね。
栗田 ●そうですね。まだ壁の中。
山本 ■象徴的な例が1つありましたよ。僕が初めて新人賞の最終選考に残りましてね、で、落っこちたんですよ。
栗田 ●はい。
山本 ■その時には、候補者が4人いて、その中の1人が受かって、残り3人が落ちるわけです。同じ空間でこれはたまらなかったですね。なんということをこの出版社はやるんだろうと思ったほど。
栗田 ●ああ、わざわざ呼ばれて落とされるんですか。
山本 ■で、落ちた瞬間は、なぜ、俺のがダメだったのか、俺のが行かなかったんだっていう、それしか思ってないんですよ。
栗田 ●なるほど。
山本 ■気持ちがざわざわざわしたまま、3人と1人で受賞会場に行きましてね、選考委員長からその日の選考結果を聞いて。
栗田 ●はい。
山本 ■最終選考でこれとこれが戦ったと言われたんですが、その2作も僕のじゃなかったんですよ。
栗田 ●ああ、そうでしたか。
山本 ■それを聞いた時に、まさに外側に出られたんだな。ふっと、楽になって。なんだ、俺はまだだったんだって。最後まで戦ってて敗れたっていうんだったら、これはきついんですけどね。そこへ行ってなかったっていうのを知らされて、ああ、じゃあ、もう1回やりゃいいんだっていうことでね。
栗田 ●心が動いたわけですね。
山本 ■うん。楽になりましたよね。
栗田 ●それは、いいですね。悲惨さに感動しなさいっていうふうに私も受講生に教えるんですよ。
山本 ■うーん。
栗田 ●これは実は、めげない、いじけない、くじけない秘訣なんです。パワーがそれだけで湧いてくるんですから。
山本 ■「悲惨さに感動する」、か。良い言葉だなあ。
栗田 ●僕の講習でも、必ず、どこかで悲惨さに感動してもらうことになる。みんなどこかで凹んでますからね。ああ、こんなに凹んだってことで外側に立ってみると、なにか馬鹿馬鹿しくなるでしょ。感動できるんですよね。
山本 ■うん。大人であればあるほど、そういう経験が必要なんじゃないでしょうかね。
栗田 ●プライドとか見栄とか、そういうのを沢山持ってると、どうしてもものごとを殻の中から見てしまうことになるんです。こう見られるといやだなってそういう気持ちがあると、感動もできないし、自分を守ることにだけエネルギーを使い果たすから、全然進歩がないんです。
山本 ■まったくそうだ。
栗田 ●守りのエネルギーを捨ててしまえば、元気になるし、とってもさわやかになるし、空間が広がるんですから。
山本 ■それはもう、僕も実生活でつくづく体感したなあ。自分の連れ合いにうそばっかり言って、いかにそれをガードするかってかりかりしたりして(笑)。それが今何にもなくなると、こんな楽なさばさばしたことはない。ちょっと栗田さんの言ってることと違うかもしれないけど(笑)、実にわかるな、それ。
 今、自分のエネルギーは本当にやりたいことだけに向けられているような気がしていますよ。そこにうそがなければ自然と力が集められて、元気なんです。
栗田 ●そうでしょうね。

15◆◆◆ 速く読むだけではダメなんだ

山本 ■実際に私くらいの年の読者の方で、速読を始めたいっておっしゃる方が多いということですが、その辺に理由があるんじゃないかなと思うんですよね。本をちゃんと読んで、自分を浄化したいという思いとか。スキルだけの話じゃないですね、速読というのは。
栗田 ●スキルだけが目的じゃないんです。いかに、自分が持ってる全部のものを生き生きと働かせてやるかということ。
山本 ■自分の頭、心をどう使うかっていうことですよね。言葉が誤解されて伝わるのかな、速読っていうと。ただ単に本を斜めに読んでって、いかにうまいかというイメージ。ケネディが速読の達人だったというのは、よく言われてますよね。
栗田 ●よく言われますね。大統領ともなると、書類もたくさん読まないといけないから、そういう技術も学んだかもしれないし。ただ、僕は、速読って何かと聞かれたら、スピードや量だけじゃなく、やっぱり、ものの本質をとらえるための技術なんだと言いたいです。速く読むだけじゃないんです。
山本 ■そうでなければつまらないな。
栗田 ●速読って読んで字のごとく、速く読むことだと、みんなそう思ってます。確かに、そういう目的から始まったんだとは思います。けれども僕が思うのは、そう思ってやる人は、ある意味、失敗する。速く読もうと思っても、必ず頭がついて行かなくなるから。知性をおいてきぼりにする訓練じゃダメですよ。
速読ができるためには、知性を高めるプロセスが欠かせないんです。
山本 ■速読って、全身全霊の技術なんですかね。いいなあ。
栗田 ●だから、体の力も高めないといけないし、私たちの精神を支えているいろいろな潜在意識の領域にも働き掛ける。これは、SRSだけがやっていることです。実は僕は、実家がお寺だからお坊さんやってたかもしれないし、22まで数学を勉強していたので教師も目指せたし、医学部に入り直してからは漢方とか、東洋医学の医者になる道も考えました。さしあたって医者になったんだけれど、でも、何が一番本来の私がやりたいことなのかなってわかったのは、交通事故に遭ったときだったんです。
山本 ■ほう。

16◆◆◆ 現代人にとって一番大事なものとは?

栗田 ●体をベッドに横たえるしかない空白の時間にはっきりと自覚したんです。自分がもがきながら追求してきたものは、心も体も包括する情報処理能力を高めることだった、と。それが、僕の速読に対する認識なんですね。それを伝えているんです。
山本 ■人生をも変えうる技術なのかもしれないな。
栗田 ●そう気づいたから、入院生活も有意義でした。さしあたって確立しようと思ったことは、速読を使って情報処理を加速するという概念。だから、まず読む速度をアップすることを始めるわけですが、車で言うと、時速100キロの能力を300キロにしようとするわけですから、あらゆるところに手を加えないといけませんよね。エンジンを変え、タイヤを変え、ボディを変え……人が速読できるようになるのもそういうことなんです。何も改良しないで、もっと速く走る車なんて実現しませんよね。同じように、知性を最高速に稼働させようと思うと、言語体系も再構築しなければいけない。過去の記憶や体験の倉庫も再構築しなければいけない。感覚も再構築しなくちゃいけない。場合によっては、人間関係も再構築しなくちゃいけません。で、僕は、そのための最短コースを提供できないだろうかと考えてきたんです。
山本 ■速読という、とてもシンプルで強力なキーワードがその入り口になったんだ。
栗田 ●それがやっぱり現代的だったんでしょうね。どんどんいろいろな方が来て下さる中で、その人たちに情報処理能力を見なおしてもらう手伝いができるようになっていきました。そして、とても短い時間にみんなが元気になって、自己実現もして、というのを見てきたんですよね。仕事とか受験とか、資格を取ったとか。やっぱり僕は、現代人にとって何が一番大事かと考えたら、情報処理能力なんだと思いました。
山本 ■能力を高めたいという欲求は、昔からあることですから、昔からいろいろな技術がそれぞれの時代の価値観をもって求められてきたわけですよね。現代には、情報処理能力だったんだ。
栗田 ●何にでも応用できるのがSRSです。最低限、一定期間トレーニングして10倍(クラス平均)の速さで読めるようになるように、僕がこれまで学んで体得してきたことを教えてきました。そういう実績は、もう10年続いているんですよ。それに、これまで教えてきて、ますますわかってきたんですけれども、ほとんどの人はものを誤解するんですよ、見事に。本を読めば誤解する、話をすれば誤解する、大げさに言えば、みんなが誤解しながら生きている。

17◆◆◆ 5%の確率で、人はものを誤解する

山本 ■僕も10聞いたうちの1つ2つは誤解するな。ははは(笑)。
栗田 ●だから速読のトレーニングでも、速く読めたらOKということはありません。速く読めて当たり前で、その上で感想文を書かせたり、いろんなことをさせて、確かめながら正確さを求めますね。
山本 ■どれくらい誤解してるもんですか。
栗田 ●もう驚くほど誤解してます。私の調べでは、5%の人は初めて読む本を、著者の意図とは裏腹にとてもたくさん誤解して、読んでわかったつもりになっているという結果が出ています。
山本 ■全く同じ本を同時に読んでですか? これはもう何人によらずですか?
栗田 ●うん、とても強力に誤解します。これは講義の聴き方でも同じようなことが起こりますね。講習ですから、みんなが同じところに座って、同じ時間読むわけですが、見事に5%の人は誤解する。20人に1人ですよ。
山本 ■じゃ、つまり普通に本を手に取って読んでいる人たちの、20人に1人はとんちんかんな……。
栗田 ●山本さんの本でも、読者の20人に1人はとても大きな誤解してますよ。曲解というか。
山本 ■現実にそれを感じることはありますね、読者から手紙をいただいたり、講演会したりすると。ホットな状態で、みんな来てくださるけれど、たまに、僕が言ってもいないことを言ったように思い込まれて困った、という事態によく出くわすんですよ。
栗田 ●うん。人間は誤解する存在なんですよ。だから、この対談がもし、本になったら、5%の人は誤解するでしょうね(笑)。
山本 ■やっぱりその5%に自分はなりたくないな。そういうことは個人の中でもあるでしょう。文章を書けば5%くらいのところが変だったり、言葉間違えたり、変換ミスしたりとか。そういうこともありますよね。
栗田 ●5%ってのは、とても大きいとも言えるし、とても少ないとも言えるんです。20人に1人っていうこの率は、あるときにはとても強力なんですから。
山本 ■うん。
栗田 ●でも、ある時には無視し得る。5%以下は無視しましょうっていうのは、サイエンスなんです。
山本 ■そうなんですか。
栗田 ●ええ。だから、5%間違っていて、95%合ってたら、もうサイエンスでは、ゼロ。
山本 ■ほう。
栗田 ●ところが、サイエンスを離れると、現実の社会では、逆の意味で強力な存在感を発揮するんです。
例えば、電車に乗ったら、100人いた。そのうち5人が犯罪者だということになると、ね。5%は時にはとても恐ろしい数字です。テレビで5%って言ったら、視聴率500万ですからね。
山本 ■見過ごせない数ですよね。事象によっては、その5%の人達がどんどん入れ替わるんですかね。
栗田 ●そうでしょうね。それはバックグランドの問題だと思いますけれども。
山本 ■テーマによって変わるということですかね。
栗田 ●そうですね。そのテーマに反応しやすい人と無関心な人がいますよね。無関心な人は淡々と聞いてるだけだから、本来の5%なんだけど、特殊な関心を持ってる人は、そこで、増幅作用がありますよね。
 増幅すると5%が30%になったりすることもあるわけですよ。
山本 ■バイアスがかかる。じゃあ長い小説を読むとするでしょ。最初のほうは正しく読んでいても、真ん中辺りになるともう、登場人物さえ、入れ替えてるような誤解すらあるかもしれないんですね。

18◆◆◆ 手に負えない間違いなんてない

栗田 ●まあ、そういう事実を知ったうえで世の中を見ていると、身の周りのいろいろな行き違いのほとんどが誤解で起きてるということがよくわかってきますよ。人間と人間がうまくコミュニケートできないのも誤解によるものですし。だからこそ、今、運命の誤りと思えることでも、人生の誤りだったと思えることでも、まったく手に負えないということはないと思っていいんじゃないでしょうか。
山本 ■そのほとんどは、情報処理の誤りなんだと思えればね。
栗田 ●価値観の誤り、好みの誤り、その辺りも情報処理の偏りから生じるものですから。そういうものは生活環境の中で親から子に伝わったりもしますしね。
山本 ■理解か誤解かというところで世の中が成立してる面があるわけか。
栗田 ●速読で自分の理解度を知る。それがスタート地点だというふうに僕は思ってるんですよ。
山本 ■本を読んで、「いかにわかっていなかったか」を知るということですか?
栗田 ●誰もが大事な場面で経験してこられたはずですよ。勉強したのにテストで失敗したとか、かつてあんなに感動したはずの本の中身が思い出せないとか。世の中の人は、それを仕方ないと言ってあきらめるし、それなのに本を読めば8割くらいは頭に残ると漠然と信じてる。だから、私が速読の講義でいつも最初にやることは、受講生に1分間本を読ませて、まずは読めた字数を数えることなんですよ。
山本 ■そうなんですか。
栗田 ●みなさん大体平均で800字前後読むんですけどね。そこで、次に読んだ内容の書き出しをしていただくわけです。どのくらい書けると思いますか? はじめに800字読んでも、それを書きだしてみるとなると、大体10単語しか出てこないんですよ。
山本 ■たったそれだけ? 
栗田 ●そうなんです。でも、それこそが、普通の読み方の限界なんです。あとは、全部わかったつもり、ということですね。だからこそ、まずはその事実を知って、あらためて速読で誤読を防ぐことから始めるといいと思います。誰がいつ始めても、情報処理能力の強化につながりますから。それが最終的に頭を元気にすることがわかるはずですよ。
山本 ■今日は、自分では気づけなかったたくさんの可能性を教えていただけました。ありがとうございました。
栗田 ●こちらこそ、楽しいお話をありがとうございました。


19◆◇◆◇ 変われたこの人の速読体験談(4例)

1◆◆主婦 TTさん 47歳
速読がこんなに身近だったなんて。
学生生活の再スタートも、SRSで楽しく過ごしています。

 今、2度目の大学生活を満喫しています。SRSは集中力や記憶力を鍛えるという評判でしたので、学生生活を前向きに楽しむために、自分にできる準備をしたいと思って速読を始めました。実は、大学卒業だけが目的ではなくて、これから先目指そうと思っている法律関係の資格取得のフォローも視野に入れて(笑)。
 学生生活と速読のトレーニングを組み合わせた毎日は、とても楽しいんですよ。受けてみればきっとわかります。少しずつですけど、毎日の勉強に速読効果が感じられたり、勉強以外のことにひょっこり役立ったり、もちろん読書は以前よりずっと多く幅広くなったと思いますし。資料を読んだりしていると変化がわかるんです。以前なら何度読んでも字面を追いかけるばかりでなかなか頭に入らなかった苦手な専門書が、楽に読めるようになってきたんですよね。結果がコンスタントに出てくると、自分にとっては速読が当たり前になって。トレーニングは家で空いた時間に数十分もあればできてしまいますから、主婦としても助かりました(笑)。速読って難しくない?とよく聞かれるんですが、その心配はいらないかも。スポーツジムに通っても、漠然と体を動かしに、というのでは長続きしませんよね。そのかわり、何か目標があるという方には絶対お勧めします。速読のためにトレーニングするんじゃなくて、速読してどうしたいかということが具体的にあると、応えてくれるのがSRSじゃないかな、と。

2◆◆学習塾塾長 ASさん 53歳
初級で10倍速読達成、
中級・上級で日常生活や仕事が変化。
今も夢に向かって速読を活用中。

 SRS速読法を上級までマスターし、現在はインストラクター資格を取得しました。自分の主宰する学習塾では、SRSのエッセンスを反映した授業で子供たちの学習に目覚ましい成果をあげることができました。半信半疑で挑戦した速読でしたが、今となっては私の生活に欠かせません。
 SRSで何が変わったかということについて端的に説明します。まずは初級レベルですが、今まで知らなかった自分について知る機会を得て、感動の連続でした。脳の力や体の力について、自分がこんなに変われるのかという自信を与えられる段階だったと思います。気がつけば体調がよくなって、本は今までの10倍以上の速さで読めているし、読書、仕事、勉強、あらゆる状況で、目で認識して頭に入るものが格段に増えました。速く読むという目標については、初級レベルで十分満足したほどです。中級の頃には、体全体を活性化するトレーニングで長年悩まされてきた額関節症が治るほどのベストコンディションになり、本は数分で速読して、役立つ情報を頭の中にファイリングする毎日でした。無駄が何一つ感じられず、充実していましたね。
 上級となった今は、教える側に回って、以前からやりたかったことに挑戦しています。子供の勉強効率を引き上げることで勉強時間を短縮できたので、ベーゴマからパソコンまで、遊びにも一緒に取り組んでいます。実現しつつある夢は、視野の広い子供を育てるということなんです。

3◆大手金融機関勤務 MAさん 40歳
今まで感じていた1分間の長さと質が
驚くほど変わってしまいました。

 ダ・ヴィンチの連載を愛読していたのですが、職場にSRS速読法の体験者がいると知って早速話を聞いてみたんです。そこで「自分とは別世界の話」と思い込んできた速読が、「私にもできるかしら?」に変わっていきました。トレーニング以降、今まで感じていた1分間の長さと質が驚くほど変わってしまったんです。
 私は銀行に勤めているので、普段から、限られた時間の中で、まとまった仕事を正確にこなしていくことを心がけていました。しかし実際には、息もつけないほど緊張して仕事にかかったり、ていねいにやり過ぎて時間が足りなくなったりということも多かったんです。それがSRSを始めてから、まず大量の仕事や資料にそれほど動じなくなって(笑)。きっと、心から速読を信用しているからなんですね。とりあえず自分は速く大量に読めるようになったんだから、読める、わかる、と思って気楽に取り組むと、その方が仕事がはかどるんです。おかげで1日を大きな流れでゆったりととらえることができるようになってきました。
 同じ時間を過ごすのでも、漠然と過ごしてしまうのと、目標を決めてそれを確実にこなしていくのとでは、充実感が違います。これまではお昼に食べたものさえ忘れがちだった私が、寝る前に好きな本を読んで、今日はこんな日だったなあと、振り返るゆとりもできるようになって。明日に希望も湧くし、ぐったり疲れることがなくなりました。人生は一度きりなんだから、なるべくなら無駄に過ごしたくないですよね。

4◆写真家 NKさん 56歳
速読をマスターして試しに新聞を読んでみたら、
今までの読み方は何だったのかと
思わずにいられませんでした。

 写真を撮る以外にも仕事を持っており、マイペースで過ごしていると、たちまち「時間が足りない」という気持ちにとらわれてしまいがちでした。情報を取り入れる、整理するという日常の営みを根本的にどうにかしたいと思っていたところで、SRSに出会ったんです。現在初級クラスを終えたところですが、希望通り、情報を取り入れるために充てる時間は大いに短縮することができました。おかげで睡眠時間も削らずに、読みたいときに読みたいだけ読むという、時間をたっぷりと使っていた少年時代のような感覚を取り戻せたような気がします。 速読に慣れてくると、速く読むことだけではなくて、読んだ情報を整理して役立てるということに今は関心が向いています。それまでは、新聞も上から下に、右から左に、ただ漠然と読まされていたような感じでしたが、速読をマスターしてからは、自分にとって必要かどうかを考えながら読んで、有用な情報は一発で頭に入れて、そうでない情報はさっと見るだけで捨てる、といった識別作業のスピードアップを心がけています。そうすることで、反省、気づき、発見などといった、次の段階の頭の働きが活性化してくるんですよね。自分の今の年齢にとっては大切だし、うれしいことなんです。
 これからも自分の身の周りだけでなく、なるべく視野を広く持って、広い世界と関わり続けていたいと思っています。速く読んでより多くの情報に触れるという速読のペースは、今の自分になくてはならないものになりました。

以上

 
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