ダ・ヴィンチ創刊10周年記念企画 
第1回 栗田昌裕×養老孟司
   「バカの壁に、抜け穴はあるか」

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 雑誌「ダ・ヴィンチ」2004年5月1日号の誌上にて、養老孟司先生と対談をした。
 その第一回目の内容を紹介しておこう。

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 <養老孟司先生のプロフィール>:
◎養老孟司1937年生まれ。東京大学医学部卒。同大博士課程修了。医学博士。専攻は解剖学。子供の頃から昆虫や動物に興味を持ち、解剖学教室では標本作りなどデータを集積する基礎的研究の一方で、脳の研究においても第一人者として知られ「ヒトの見方」「脳に映る現代」「唯脳論」「涼しい脳味噌」など著書多数。「バカの壁」は300万部を超える大ベストセラーとなり、新書発行部数における日本新記録を樹立した。近年は科学的領域にとどまらず、文学方面にも活動の 幅を広げている。日本文芸家協会会員。
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 <栗田昌裕のプロフィール>:
◎栗田昌裕1951年生まれ。東京大学理学部卒、同大学院修士課程修了、同医学部卒。医師、医学博士、薬学博士。薬物動態学、肝臓病学、医学統計、システム理論などの研究を進める一方、講演や執筆も行う。
日本初の速読1級の検定試験合格後、速読を入り口としたSRS(スーパー・リーディング・システム)能力開発法を提唱。「読む」ことを音韻言語のみの世界から視覚でキャッチするすべての情報に対応・発展させた情報処理を教える。世界伝統医学大会3回連続グランプリ受賞をはじめ、毎日21世紀賞、2001年提言賞等受賞も多数。
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<本文>
本当なら、風が吹いて水の流れるような気持ちの良い場所で会って欲しかった。
共に子供の頃からの昆虫採集家であり、東大医学部出身。
かつての教師と教え子でもある二人は、「脳は身体の一部でしかない」と口を揃える。
本を読んでも勉強しても働くときも、脳には予測不可能な世界を見せよ、と。
人は気づきや行動を通じて、情報が「脳から入って身体から出る」というシステムを
どれだけ身に付けられるかということが重要であり、それが人生を決める――。
多くの人は、そのメッセージの真意を直感的には理解している。
しかし、日々の生活で何をどう変えたらいいのかつかめずに、暗中模索してもいる。
脳と身体の調和の取れた情報処理システムのわかりやすいモデルとしての「速読」で、
実際の生活に体験を生かすメカニズムを語る栗田氏、
情報は変わらない、変わるのは自分であり、変わる喜びに生きよ、と養老氏。
……“壁”の向こうから、子供の自分が身を乗り出し、話に聞き耳を立てている。
構成・文/今屋理香

対談CD『情報は変わらない、変わるのは「自分」』から抜粋・編集

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――みんな、自分に得意なことは何かとか、これから自分は何をやっていったらいいのかということを探すときに、1つのことに没頭して道を究めたほうがいいんだろうなと思いがちですよね。
栗田■ その理由は、他人の影響を受けてしまうからです。その時代の価値観とか、身近な人の価値観に影響を受けて、刷り込まれてしまう。でも、本当に大事なことは、3歳とか5歳くらいまでに芽が出てるのではないかなという気がするんです。その原点を考えて、それに近い分野を選ぶようにすれば、多分正解になるんじゃないかって気がするんですよ。
養老■ (自分はこういう人間だと)そういうふうに思う人が一つ落としてるのは、今自分がそう思ってたって、その自分が変わるかもしれないって可能性ですよ。僕は、「固定した自分がある」って考え方が、非常に多くの日本人を殺してると思いますよ。それは間違いだろって。なんせ諸行無常の国なんですから。それを自分に及ぼせば、同じ自分なんか無いんだよって。今必死になって、これが心配だとかあれがどうとか思ってるけど、その自分さえ変えちゃえば、外の事態は変えようがないとしても、全然違って見えるかもしれない。そこが、一番抜けてると思う。皆な自我を固定して動かさないために暗黙のうちに押し込んでしまうんですよね。それを「個性ある個人」と思ってるところがあるんですよ。それは一番大きな誤解じゃないでしょうかね。
栗田■ そう思い込みたいというか。
養老■ 栗田さんのところへ行かなきゃいけない人が増えてくるのは、一つはそれがありますよ。自分を変えさえすれば、世の中同じでも違って見えるんですから。だってそんなこと風邪引いたって変わるでしょ。
チェーホフは書いてますよ、「世界観なんて風邪の症状だ」って。

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――情報が変わって行くわけじゃなくて、自分が変わる?
養老■ そう、自分が変わる。ほかは変わりようがないんだから。
栗田■ 私の教えているSRS速読法の受講生の体験談で多いのは、風景の見え方が変わったとか、色が変わったとかに始まって。
養老■ 性格も変わるし。
栗田■ 何気ない風景が変わって見える。情報処理をする仕組み自体が変わると、物の見え方が変わるわけで。

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――自分自身の受け皿も活性化するわけですよね。例えば本を読もうと思ったら、机の上に、何冊も重ねて読むんじゃなくて、何冊か持って外で読むって、いかがでしょう。
栗田■ うん、いいんでしょう。電車の中で、トイレで、公園で読んでもいいし。
養老■ 僕なんか、本って外でしか読みませんよ。「二宮尊徳読み」。二宮尊徳って薪運びながら読んだんですよ。僕も、全く同じだってわかる。どういうことかっていうとね……(CDに続く)

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対談をすべて収録したCDの内容:
●男と女の間には
●「速読」で本を理解するとはどういうことか
●身体を使うことの良さ
●入力は「感覚」、出力は「運動」
●反応不良症候群
●田舎のすすめ
●情報は変わらない、変わるのは「自分」
●二宮尊徳読み
●「予測不能」の世界を追え
●アルキメデスはなぜ風呂から飛び出したか
●「うれしい」の効用 (全60分)

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